おいてけぼりティーンネイジャー
「……何で服着てるの?」
私の気配で暎さんが目覚めたらしい。

「おはよ。もうすぐ朝食来るんちゃうかな。」
そう言ったけど、暎さんは私をベッドに引っ張った。

「する。」
「もう10時過ぎてますよ?」

「する。」
「朝食、来ちゃいますよ。」

「するもん。」
そう言いながら暎さんは、私の服を剥ぎ取った。

……どうしても、するんや。

「じゃ、ルームサービスちょっと遅らせてもらいましょか?」

「いいよ。返事しなきゃ、マスターキーで入ってきて、勝手に整えてくれるから。」
暎さんは、ニッと笑った。
「声、出しちゃダメだよ。」
そう言いながら、暎さんは私を翻弄した。

チャイムが鳴った時も、給仕の人が準備してくださってる間も……これは天国か地獄かどっちなんだろうかって気分だった。

確かに気持ちいいんだけど刺激が強すぎて……なのに声も出せなくて……
その分、涙がボロボロとこぼれて、涎まで落ちて、自分が野生の動物みたいな気がした。

「……恥ずかしい。」
自分で自分の痴態が信じられなくて、私は少し冷めたお粥を口に運んだ漆塗りのスプーンの影に隠れたい気持ちになった。

エッグベネディクトと格闘しながら
「なんで~?かわいいよ。俺が知織を狂わせてるって思うと気分もいいし。機嫌直して、笑ってて。」
と、こっちを見た。

よそ見したせいで、卵の一部がお皿から滑り落ちた。
「わっ!あ~あ。」
諦めて解体しながら食べる様子が可愛くて、自然に私も笑顔になった。

「じゃ、そろそろ行きますね。いつから行くん?旅行。」
次、いつ逢える?……と聞く代わりにそう聞いた。

「あ~、旅行やめて実家に帰ろうかなって思ってるんだけど。」
実家?

「……ご両親の具合でも悪いとか?」
珍しいな、と聞いてみた。

「いや、いたって元気。真面目にさ、知織のご両親に挨拶したいんだけど……このままついてくわけにもいかないだろ?ちゃんと進めるために、まずうちの親に話して、年明けたら知織のご両親にお願いしに行こうかな~……って。」
暎さんが照れくさそうにそう言った。

鼻の奥がツーンとして、胸がドキドキするのに、同時に締め付けられるように痛んだ。
「暎さん……あの……」

今は無理!とだけ言うべきなのか。

いや、何年待ってもらっても過去は変わらない。

いつかは対峙する問題だ。
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