おいてけぼりティーンネイジャー
言葉に詰まってる私の目を暎さんが覗き込んだ。
「ん?どうした?……嫌?」

嫌なわけない!
私はふるふると首を横に振った。
涙がボロボロとこぼれた。

「……でも、なんか、うれしくて泣いてるって感じでもないような……」
暎さんが拭いても拭いても、私の涙は止まらなかった。

「私は、暎さんがどんな罪を犯していても、かまいません。例え、親子だったとしても、後悔しません。両親と訣別することになっても、暎さんと生きたい。」

でも、暎さんにはその覚悟はない。
何も知らないんだもん。

「何の話?親子って……俺と知織が?どういう意味?比喩にしてもよくわからないけど……」

私は、暎さんと改めて向き合って、背筋を伸ばした。
「聞いてください。そして、暎さんも、本当のことを話してください。」

困惑してる暎さんに、私は言った。
「私の母は旧姓池田裕子と言います。高校を辞めて私を産みました。父親はわからないそうです。でも、ちょうどその頃、暎さんと付き合っていたようです。急性薬物中毒にもなったそうです。……記憶にありますか?」

「池田……ゆうこ……ゆうこ……」
暎さんはそう繰り返して、ハッとしたように私を見た。
「いた。裕子……知織に似てた……」

こんな時なのに、クッと笑いがこみ上げた。

「逆です。池田裕子に私が似てたんです。……暎さんが、私と出逢った時に、懐かしい気がしたって言ってたのは、母の面影を私に見たからなんですね。」

2年半かけて積み上げてきた暎さんとの愛が、足元から崩れていくような気がした。

「平原先生によると、母は中学の頃から暎さんのことが好きだったそうです。ジッドの『狭き門』に暎さんが陸上の大会で怪我をしたという古い新聞記事が挟まってましたので、本当だと思います。」

暎さんは、信じられないという顔で首を振った。
「じゃ、あの本……裕子が……」
暎さんの中でもパズルのピースがはまったらしい。

「本って、グールモンの詩集ですか?あの四つ葉のクローバーのしおりも、母が作ったものみたいなんですけど……」

私がそう言うと、暎さんはぐっと目をつぶった。
「ごめん。知織の父親は、俺じゃない。でも、裕子を傷つけたのは、俺に責任がある。俺が、いいかげんなことばっかりしてたから……裕子はその犠牲になったようなもんだ。……ごめん。」

父親じゃない……そこは、断言できるんだ。
私は、大きく息をついた。

「繰り返しますが、私は暎さんが母にどんなに酷いことをしたと聞いても暎さんを嫌いにはなれません。母には悪いけど母と絶縁しても暎さんと生きたい。でも暎さんは?ご自分の過去に苦しんでも私といたいですか?もしかすると一生、私を見る度に罪悪感にさいなまれるかもしれません。それでもいいですか?」

暎さんは唇を噛んでうなだれた。
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