おいてけぼりティーンネイジャー
貝になってしまった暎(はゆる)さんに、私は為(な)す術(すべ)もなかった。
放置して帰るわけにもいかない。

とりあえず、洗面室から由未ちゃんに電話をした。
「ごめん。遅くなりそう……。」

『ん~?一条さんが離してくれへんの?何時でもいいよ~。今晩も泊まることにしてもいいし。』
「いや、そこまでは。目途(めど)ついたら連絡するね。ごめんね。」

電話を切ってベッドルームに戻ると、暎さんは部屋のミニバーのブランデーをラッパ飲みしていた。
こらこらこら!

「身体に悪いですから、やめてください。」
そう言って取り上げたけど、既に瓶は空(から)だった。

「これぐらいでどうにもなんないよ。」
投げやりな暎さんに、ちょっと悲しくなった。

真面目に話してるのに、向き合うんじゃなくて、お酒に逃げようとしたんだ。
何だか口惜しくて、私もミニバーへ行き、ウィスキーの小瓶を開けた。
暎さんの真似をして一気に飲もうとして、途中で咽(む)せた。

慌てて暎さんが飛んできて、背中をさすってくれた。
「何やってんだよ……」

それはこっちの台詞やわ!
「暎さんの真似!毒を食らわば皿まで!」

キッと暎さんを睨むと、残ったウィスキーを飲み干した。
……きっつ~。
身体中が重くなり、耳がぼわーんとしてきて……視界が暗くなってきた。

「わかったから。知織まで壊すわけにいかないから。なあ。俺、どうしたらいい?裕子のためには、知織のこと、諦めたほうがいいんだろうけど……」

「アホちゃう!?何でそうなるねんな!それじゃ、暎さんは、私より母が好きなん!?」
……私らしくない言葉の乱れは、全てウィスキーのせいということにしておこう。

暎さんは、私を抱き上げてベッドに運んだ。
「知織が必要なんだ。……ほんとに悪いけど、裕子のことは断片的にしか覚えてなかった……でも今、だいぶ思い出してきたから、罪悪感で一杯。どうしたら償える?……知織を諦める以外で。教えてくれよ。」

どんどんボーッとしてきて、まるで頭の中に霧がかかったようになってきた。

「そばにいて。行かんといて。離さんといて。一緒に苦しむから。母より暎さんを選んだ段階で、私も暎さんと同罪ねんから。……罪悪感も一緒に……地獄へ落ちる……」

そのまま寝てしまったようだ。
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