おいてけぼりティーンネイジャー
私は、暎さんの腕にピトッとくっついた。
「卑下せんでいいよ。私は、暎さんを責めるつもりもないし。」

暎さんは、私の頬をそっと撫でた。
「ずっと後悔しかなかったのに、結果的にそれで知織が生まれた、って、すごいわ。運命の皮肉か。」

「許し、じゃない?」
私の適当な言葉は、暎さんの心に強く作用したらしい。

暎さんの両目から涙がこぼれ落ちた。
「知織……。」

暎さんは、私にしがみつくように抱きついてきた。
「知織。ありがとう、生まれてきてくれて。俺、知織と一緒にいると、救われるって思ってたけど……知織の存在自体に救われたみたい。」

そんな風に言われて、私も泣けてきた。
自分が望まれてできた子じゃないって知って以来感じてきた言いようのない孤独まで浄化さるような、そんな気持ちがした。

ようやく2人が落ち着いたころ、暎さんは重い口を開いた。
「高校時代、4人でハードロックバンドを組んでたんだ。ほんと、むちゃくちゃな奴らでさ。……それがロックだって勘違いしてた。最初は、そんなメンバーに馴染めなかったけど、裕子がメンバーに薬で壊されたのを見て、俺も絶望したというか……ちょっと考えれば、裕子がそんな子じゃないってわかりそうなのに、俺が裕子を聖女のように思ってた分、裏切られたような気がしたんだと思う。裕子を助けることもせず、その場から立ち去ったんだ。」

……薬物を使っての暴行……で生まれたのか……私。
しかも、暎さんも居合わせたってことか。

「暎さんは、生物学的な父親が誰か知ってるん?」
「……うん。」
「似てる?私。」

暎さんは遠い目をした。
「顔はそうでもないと思うけど。頭のいい奴だったよ。人生を斜に構えて見てて、冷めた男だった。やることめちゃくちゃなのに、仲間のことは売らない、侠気(おとこぎ)のある奴だったよ。」

暎さんの目からまた涙がこぼれた。
「俺は体質に合わなくて試す程度しかできなかったけど、薬だって全員やってたんだ。なのに、あいつだけが捕まって。」

私は息を飲んだ。
「今は?何してはる人?」
ヤクザだったりして……と、笑えない想像をした。

暎さんは両手で頭を覆うように、大きく涙を振り払った。
「死んだ。少年院出てすぐ、バイクで事故って。」

……そっか。
悲しいんだか、虚しいんだか、腹立たしいんだか、よくわからない。
ただ、ストンと納得した。

「IDEA(イデア)の曲にありましたよね。バイクで死んだ親友の歌。魂は消えない、って。いつかお前と魂の再会をする、って。」

暎さんはゆっくりうなずいた。

「そのお友達のこと、好きだったんですね。」

歌の歌詞を見れば、暎さんがそのヒトをいかに敬愛してたか、よくわかる。
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