おいてけぼりティーンネイジャー
暎さんは、淋しそうに言った。
「かなわない、って思ってたよ。何もかも。」

「……事実だけを追えば、ただの狂った犯罪者にしか聞こえませんけどね。」
つい本音でそう感想を述べた。

暎さんは、ちょっと笑った。
「今だから言えるのかもしないけど、奴の狂気は知織の中にもちゃんと息づいてるよ。俺、知織には絶対かなわないもん。」

……褒め言葉じゃないよな、それ。

「だから、裕子にふられても納得せざるを得なかったんだよな。あいつが相手じゃ、しょうがない、みたいな。」

え?

「ふられた?暎さんが?母に?……それは聞いてへんわ。」
一方的に暎さんが母を捨てたと思ってた。

暎さんは、頭をかいた。
「うん、俺も忘れてた。あの後、俺、未練たらしく裕子に『やり直したい』って言ったけど相手にしてもらえなかったんだよ。ふられたから忘れたのかな。」

「……じゃあ、もしかしたら、暎さんが私の育てのお父さんになってた可能性もあったんやろか……」
私達は何とも言えない表情で、お互いを見つめた。

「運命に感謝、だな。」
暎さんは、安堵のため息をついて、私を抱き寄せた。




「決めた!俺、裕子に謝る!許してもらえなくても、謝る!で、何年かかっても、知織とのこと、許してもらう!」

翌日、大晦日の朝、暎(はゆる)さんは両手を握りしめてそう宣言した。
「……先走らないでくださいね。まずは父と相談してからですよ?」

暎さんの熱い想いをを身体で受け過ぎて、腰が立たない私は恨めしげに見上げた。
……何でこの人こんなに元気で前向きなんだろう。

「送るよ。由未ちゃんのお家までなら、いいだろ?」
私はあきらめてうなずいた。

10時にチェックアウトをしてから、ホテルの中華料理屋さんの個室で中華粥の朝食をいただいた。
「……知織、いっつもお粥を食べてる気がする。」
暎さんにそう言われて首をかしげた。

「そうかも。実家でもおばあちゃん家でも食べへんからかな。」
「お粥って、風邪ひいた時ぐらいしか食べなかったよ。」
「……そう言われてみればそうですねえ。でも逆に、お粥が贅沢品のように錯覚してるかも。塩辛いたくあんを塩抜きしてから炊く『贅沢煮』みたいなもんかな。」
「贅沢煮。すごく京都っぽいよね、その名称も。」

暎さんはそう言ってから、ふと気づいたように聞いた。
「寺の食事って……菜食?」
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