おいてけぼりティーンネイジャー
「精進料理ってことですか?うん、美味しいよ。でも、そんなん、特別な修行や行事・法事の時か、お客さん向けやけど。普通にお肉もお魚も食べてはるよ。なんで?」

私がそう聞くと、暎さんはちょっとためらいながら言った。
「企画でお寺に行くことになりそう。まだどこの寺に行くかは決まってないけど……」

ふ~ん?と相づちを打ちながらお粥を口に運んだ。

「知織のご親戚のお寺も有力候補だよ。」
……咽(む)せそうになった。

「由未ちゃんにちらっと聞いたよ。いい男がいるんだって?」
「あ~……私もよく知らない。昔逢ってるらしいけど覚えてへんねん。ちょっと関わりたくない感じ。」

由未ちゃんのお兄さんに感じたのとはまた違う危険信号を感じたので、なるべく近づきたくない。

「ふぅん。……妬けるね。」
暎さんの言い方は、なんだかイケズだった。



食事してる間に準備してもらったレンタカーで、暎さんは本当に京都の由未ちゃん家まで連れてってくれた。
「ここ?何?これ。」

暎さんがそう言うのも無理ない。
由未ちゃんのお家は、丘まるまる1つ分ぐらいあって、玄関から建物は一切見えないぐらいおっきい。

「豪邸。ちゃんと、お母様に大人のご挨拶してくださいね。」
昔の映像に比べれば落ち着いたとは思うけど、それでも暎さんのお行儀が心配で、私はそう釘をさした。

暎さんは苦笑してたけど、由未ちゃんとお母様が出てきたら、サングラスをはずしてシャキーンと背筋を伸ばしてくれた。
チャラ男が王子様に変貌した。

「はじめまして、一条と申します。ご挨拶が遅れましたが、いつも由未さんにご協力いただいてま
す。ありがとうございます。」
綺麗なお辞儀で金色の長い髪がふぁさっと揺れて輝いた。

「まああ!本当にIDEA(イデア)の!まあああ!知織ちゃん!そうなの!?」
由未ちゃんのお母さまは頬を染めて大興奮……少女趣味のお母さま的には、こういう王子様タイプはツボかもしれない。

「もう!お母さん!ちゃんと挨拶してよ!一条さん、すみません、母が舞い上がっちゃって。知織ちゃん、はい、これ。」
由未ちゃんがそう言いながらGPSを手渡してくれた。

「ありがとう。ごめんねえ。助かった。」
「ううん。いつでもどうぞ。お兄ちゃんも協力するって~。」
暎さんがピクッと反応したことに気づいたけど、無視した。



「……由未ちゃん家(ち)までって仰ってませんでしたっけ?」
由未ちゃんとお母さまに見送られてから、首をかしげてそう聞いた。

「家まで送るよ。」
鼻歌まじりでそう言う暎さん……不安だ。
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