おいてけぼりティーンネイジャー
道路は他府県ナンバーの車でけっこう混雑してたけど、暎さんは終始ご機嫌だった。

「今日もう帰らはるんですよねえ?今年の年越しは、ご実家でですか?」
「うん、そのつもり。知織が東京に戻ったら紹介するよ。」

え?
それって……

「こ、高校生連れてったら、びっくりしはりません?」
今から緊張してきた。

「ちゃんと言っとくよ。」
「でも、まだ早くありません?」

ついそう言うと、暎さんは運転中なのに私を見た。

「危ない危ない!前向いてて~!」
「はいはい。……2年半だよ。早い?早いか?」
暎さんに確認されて、ちょっと困った。

「ごめん、期間じゃなくて、歳の話……私の。」
「16歳過ぎてるし問題ないだろ。それに、実際に結婚するには、たぶんまだ時間かかるだろうし。とりあえずの顔見せ?」

軽く言ってるけど、暎さんは本気で私を捕獲しようとしてる。
私は、それ以上何も言えずに、ただ息を飲み込んだ。

母と暎さんの過去に悩んだ一週間はなんだったんだろう。
暎さんは一晩であっさり乗り越えちゃった。

性格の違いと言えばそれまでなんだろうけど……。
暎さんは、私にかなわない、って言ってたけど、私はやっぱり暎さんにかなわない、って思う。

多少調子がよすぎるきらいもあるけど、前向きで強いって、すごいことだ。
私もそんな風になりたい。
何があっても揺るぎない意志。

運転している暎さんの横顔は、綺麗な優男なのに力強さと自信に漲(みなぎ)っているように見えた。



「その角を曲がったところなので、ここでいいです。」
家の近くで車を停めてもらおうとしたけれど、暎さんは黙って角を曲がってしまった。


「大村」の表札の前で車を停める。
「これはまた……寺の塔頭みたいな立派な日本家屋だねえ。足がすくむよ。」

サングラスをはずして、暎さんは窓から我が家を見上げた。
「……廃寺になったお寺を改装したみたいです。じゃ、ここで。良いお年を……」



私の言葉を無視して、暎さんはさっさと車から降りた。

やばい!

「暎さん?今日は帰ってくださいってば!」
慌てて私も車を降りて、暎さんを追った。


暎さんは、門柱の呼び鈴を押すこともせず、ずんずんと入っていく。
ちょっと待ってー!
やめてー!

必死で追いすがってやっと暎さんの派手なジャケットの裾を捕まえた!
「今日は嫌やて言うてるやんか!」

思わずそう怒ったら、
「知織?」
と、有り得ない方向から母の声がした。

しまった!

恐る恐る、枝折(しお)り戸の向こうを見ると、両親がポカーンとした顔で庭からこっちを見ていた。
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