おいてけぼりティーンネイジャー
「まあ!暎さんじゃないですか!珍しい!お義母様~!暎さんですわ!」
義姉が騒ぐのを横目に、俺は
「ただいま~。」
と小さく言いながら、家に上がった。

兄貴が結婚した女性は、実家の財力と優秀さを鼻にかけていて俺は苦手。
なのに義姉は、やたら俺に馴れ馴れしくて辟易していた。

「暎!またそんな髪して!切りなさい!」
母がいつも通りの文句で迎えた。

「なんだ、お前、今年も紅白には出られないのか!いつまで二流なんだ。」
父もいつも通り……安定してるなあ。

「俺達は細く長く続けばそれでいいんだよ。兄貴は?」
「年末のご挨拶まわりに同行してらっしゃるわ。」
義姉が子供達を連れてきた。
俺にとって、甥っ子と姪っ子にあたる2人は、恥ずかしそうに挨拶した。

「お、偉いなー。明日になったら、お年玉あげるからな。」
俺が何の気なしにそう言うと、義姉が驚いた顔をした。
「暎さん、今年のお正月はこちらで過ごされるんですか?」

……迷惑そうだな、なんか。
「うん、そのつもりなんだけど。まずかった?」

義姉は明らかに動揺していた。

「何かあるの?」
俺が母にそう聞くと、母は義姉をちょっと睨んだ。
「気にしないでゆっくりしてちょうだい。実家なんだから。ちょっと明日からバタバタするでしょうけど。」
正月早々、何だ?

夕食をつまみながら親父と酒を飲んでると兄貴が帰宅した。
「暎!久しぶりだな。元気だったか?珍しいな、正月、こっちで過ごせるのか?」

兄貴は、何だか痩せてた。
「うん、そのつもり。何かあるの?明日から?」

俺がそう聞くと、兄貴は頭をかいた。
「12月末で仕事辞めたんだ。次の市会議員選挙に出ることになった。明日から始動するんだ。」

え!?
兄貴、いくつだ!?
えーと、来年40歳!?

「そっかあ。いよいよ、出るんだ。すごいな。俺、なんか、手伝える?」
兄貴は苦笑した。
「いいよ。俺のお堅い真面目なイメージに、暎の芸能人パワーは諸刃の剣だよ。暎は、警察のご厄介にならないでくれたらいいよ。多少のスキャンダルは話題の種だと思っておくから。」

俺の胸がちょっと傷んだ。

淫行は、警察沙汰か?

うーん。

紅白歌合戦を見ながらみんなで年越しそばを食べる。
いったい何年ぶりだろう。

知織は、除夜の鐘をつきに行くって言ってたっけ。
旨いにしんそばでも食うのかな。

離れてても、ちょっとしたことで、すぐに知織のことを思い出して考えてしまう。
我ながら、重症だと思うよ。

泣いてないといいな。
笑っててほしい。

……でも、俺以外の男にあまり笑顔を見せてほしくないけど。

あー。

ずっと一緒にいたい。
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