おいてけぼりティーンネイジャー
「知織?どう?もめてない?」
『あけましておめでとうございます。おかげでさんざんな年越しでしたよ。もう!』
「……ごめん。怒られた?」

少しの沈黙のあと、知織が小さく泣いていた。
『怒られたほうがマシです。心配されて、嘆き悲しまれて、心苦しいです。』

「ごめん……」
俺の手の届かないところで泣かれることがこんなに苦しいなんて。

抱きしめてあげたい。
涙を拭いてあげたい。

『あ、そや!事情聴取で嘘つきました。暎さんも、ちゃんと口裏合わせてくださいね。私が東京に行ってから出逢ったってことと、まだHはしてないってことで!』
電話の向こうで知織が拳を握りしめたのが見えた気がした。
強い子だよ。
泣いても、必ず自分で立ち上がろうとするんだよな、知織は。
俺と一緒に生きるって決意してくれてても、俺に依存するのは嫌みたいで自立する気満々らしい。

……別に東大に行かなくても、高校だって中退してくれても、俺はかまわないのに。
いつか俺と別れた時に困らないように、って準備してるんだろうな。

信用されてないことを淋しく思うと同時に、意地でも手放してやるもんか!ってこっちも気合いが入るけどね。

「じゃあ、夕べも由未ちゃんとこに泊まったことになってんの?」
『うん。……そう言い張った。』
……たぶんバレバレなんだろうな。

「わかった。正月終わったら、俺、京都に通うから。」
電話の向こうで、知織がまた泣いた気がした。

「泣かなくていいよ。絶対あきらめないから。」
『……泣いてへんもん。』
涙声でそう言う知織が愛しくてたまらなかった。



元日の朝。
家族が座敷に集まって挨拶を交わした後、おせち料理とお雑煮をいただいた。

昼から兄貴の選挙関係の客が来はじめた。
自室に引っ込もうとした俺を、父が離れに呼んだ。
「書き初めをするから暎も書きなさい。」

……父は毎年必ず正月に筆を取っていたっけ。
正直、俺は字が上手くない。
でも、父に強要されて、渋々墨を摺り始めた。

「……夕べの話だが……お前が昔つきあっていた女性というのは……陸上の平原まゆ選手じゃないな?」
父が言いにくそうに聞いてきた。
慌てて俺は手を振った。

「違う違う!まゆ先輩とはつきあったことないから!……あ、でも、当時は知らなかったんだけど、まゆ先輩の親戚だったよ。いとこだって。」

基本的に無表情な父の眉毛がぴくりと上がった。
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