おいてけぼりティーンネイジャー
「そうか……。平原家は、代々うちの有力な支援者の1人だから、今、揉め事を起こされても困るんだ。意味、わかるな?」
「兄貴の選挙にも影響あるの?」
……何か、イロイロめんどくさいなあ。

「平原家の親戚のお嬢さん、か。」
父は目を閉じて、何かを考えていた。

「心配しなくても、まゆ先輩は何も言わないよ。そんなヒトじゃない。」
俺の言葉はスルーされたようだ。

しばらくして、父はさらに聞いてきた……学校は?家柄は?父親の職業は?
知織自身のことじゃなくて、知織の条件が大事なんだな。

「ちゃんと親父が満足する条件を兼ね備えてるよ。でもそんなことで俺は知織を好きになったんじゃないから。知織って人間を、しっかり見てやってよ。」
そう言って、俺は筆にたっぷりと墨を吸わせて、思いっきりよく書いた。

『枢要徳』
父は俺の書を見て、吐き捨てるように言った。

「あいかわらず下手くそだな、お前は。」
肩をすくめて立ち上がった。

「まあ、待て。……その子には知恵、節制、正義、勇気がある、と言いたいのか?」
父は俺の言いたかったことをちゃんと理解してくれたようだ。

「ああ。舌を巻くぐらい、聡い子だよ。」
俺がそう言うと、父はちょっと笑った。

「そうか……。お前がそんな子を連れてくるとはな……。どうしようもないのとばかりつきあってると思ってたが、」
「もう!そういうのは全部遊びだから!週刊誌、真に受けないでよ!」
父の言葉を最後まで聞いてられず、俺はそう叫んだ。

ジロリと俺を見て、父はおもむろに言った。
「……お前に対する世間の評価だ。心しておきなさい。」
うわ~~~、それ、堪えた。



1月5日。
知織が東京に戻ってきた。
一日千秋の想いで待ってた俺は、東京駅の地下駐車場まで迎えに行った。

「おかえり。」
車に乗り込んできた知織を、ぎゅーっと抱きしめる。
「……やっと暎さんとこに帰って来れた~。」
知織はそう言って、俺の胸でさめざめと泣いた。

かわいそうに……。
「逢いたかったよ。すごく、淋しかった。」
そう言いながら、知織の頬やうなじに口付けを落とした。

「少しはゆっくりできる?」
「……今日はまっすぐ等々力に行ったほうがいいかも。」

残念そうにそう言った知織の唇を捉える。
柔らかい唇も甘い舌も、全て俺のものだー!……とばかりに、夢中でキスした。

「わかった。送るよ。」
やっと知織を手放して、シートベルトを締めた。
ぐったりしてる知織のベルトも締めてあげてから、ハンドルを握った。

このまま、連れ去ってしまいたい。

なんで道路は渋滞してないんだ?

スイスイ走れることに苛立つぐらい、俺は知織と離れたくなかった。
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