おいてけぼりティーンネイジャー
翌日、知織はいつも通り図書館に行くと偽って、昼過ぎに俺のマンションにやってきた。
「てっきりもう来られなくなるかと思った。」

知織の入れてくれた紅茶を飲みながら、しみじみそう言った。
今日の紅茶は、白桃アールグレイ。
なるほど、甘酸っぱい桃の香りをスッキリと流してて美味い。
いつもながら絶妙なブレンドティーの香りと味に満たされた。

「うん……一時は京都に戻って来いって空気になってんけど、成績も模試も結果が落ちてないからって、父が母を説得してくれたん。暎さんと遊び呆けてるわけじゃないやろ、って。」
……大村さん、知織と裕子には甘いのか……俺には超意地悪のタヌキ親父だったけど。

「じゃあ、これからも成績が下がらなければ東京にいられるんだ。」
知織はティーカップに口をつけながら、かすかにうなずいた。

そして、じんわりと涙を浮かべた。
「知織?」
「……くやしい……」
そう言って、知織は口をつぐんで静かに涙をこぼした。

どうして?
わけがわからず、とりあえずティッシュの箱を引き寄せて、知織の涙をぬぐった。
知織はティッシュでフビ~~~ッ!と鼻をかんでから、俺のシャツの胸にしがみついた。

「父は、暎さんと私の恋愛は一時的な熱病ぐらいにしか思ってないんです。無理矢理引き剥がしたら意固地になって突っ走るかもしれへんけど、ほっといたらそのうち別れる、って思ってるみたい。……だから、私を自由にしてるんやわ。」
そう言って、知織はまた涙をボロボロとこぼした。

えーと……それって……
「もしかして、俺がいい加減な男だから?すぐに知織が捨てられるか、逆に知織が俺に呆れて離れる、って思われてるってことか?」

俺がそう聞くと、知織はこっくりとうなずいた。
あはは……まあ、そうだよな。

大村のタヌキ親父の顔を思い浮かべてから、元日に父に言われた世間の俺の評価というものを再認識して、俺は脱力した。



「よし!じゃ1つずつ片付けていこう。知織、これから俺の実家行くよ。」
俺はそう言って、すぐに携帯電話を取った。

「ちょ!そんな急に言われても!服、普段着やし!手土産ないし!」
拒否ってる知織を無視して実家に電話をする。

『はい、一条です。』
「あ、兄貴?俺。これから、彼女を連れてそっち行くから。お母さんに言って。」
『……わかった。夕食、寿司でも頼もうか?』
「ちょっと待って。……知織~、夕食、一緒に喰って帰れる?」

知織は、ぶるぶるぶるっ!と首を横に振った。
「もしもし?ダメだって。」
『……時間も時間だし、ダメ元で注文しておくから。』
「ありがと。じゃ、あとで。」
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