おいてけぼりティーンネイジャー
電話を切ると、知織は両頬をぷーっと膨らませてた。
「何ふくれてんの?」
「だって!そんな急に!ひどい!心の準備できてへんもん!」

ぷりぷりしながらも、京都で買ってきた紅茶のボックスを風呂敷のような大判のハンカチに包んでる知織。
「それ、手土産にするの?俺、楽しみにしてるのにぃ。」

俺がそう言うと、知織はチロッと俺を見て言った。
「暎(はゆる)さん、これから京都に通わはるんやろ?ついでに買うてきはったらいいやん。」
……血はつながってないはずなのに、知織が大村のタヌキ親父に似てた……怖っ!

うちのマンションから実家までは、車で45分。
ちょうど15時頃に到着した。

「……暎さん、ええとこの子ぉやったんや……」
俺の実家に驚いたらしく、知織がそうつぶやいた。
そうでもないよ、と言おうとしたら、門が開いて義姉が出てきた。
……一番どうでもいいヒトが真っ先に飛び出してきたよ。

「暎さん、お帰りなさい!こちらのお嬢さんが!?」
義姉は知織をぶしつけなほど、ジロジロと見た。
彼女の押し出しの強さに驚いたらしく、知織は俺を見た。

「兄のお嫁さん。」
俺がそう紹介すると、知織は納得したらしく、深々とお辞儀をして挨拶した。

「はじめまして。大村知織と申します。突然お邪魔して、すみません。」
知織の物腰の上品さに、義姉は明らかにたじろいで鼻白んだ。
俺はちょっといい気分になって、知織の背中に手を回して家の中に入った。

義姉は俺達を両親と兄の待つ座敷へと案内した。
「ただいま~。連れてきたよ。」

俺は立ったまま障子を開けて部屋に入ったけれど、知織は廊下に座って手をついてお辞儀をしてから入ってきた。
「はじめまして。大村知織と申します。突然お邪魔して、すみません。」

さっきと同じ挨拶をした知織……落ち着いてるようで緊張してるのだろう。
かわいいな。

「……暎の父です。愚息がお嬢さんを振り回して迷惑をかけているようですね。」
父の目がいつもより優しい。

知織は困ったように微笑んで、否定も肯定もしなかった。

「知織、こっちおいでよ。」
いつまでも戸口にいる知織を手招きすると、知織は父と母を交互に見た。

「どうぞどうぞ。」
母が慌ててそう言うと、やっと知織はホッとした顔をした。

「失礼します。」
そう言ってから一度立ち上がり、俺の隣の座布団をよけて、座った。

「御座布団敷いてくださいね。」
重ねて母にそう言われて

「ありがとうございます。」
と、お礼を言ってからちょこんと座布団に座った知織。

……回りくどいというか、しちめんどくさい……これが礼儀なのか?
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