おいてけぼりティーンネイジャー
「もっとフランクにしてたらいいよ。」
ついそう言うと、知織は曖昧な微笑みを浮かべて
「……はい。」
と、だけ言った。

そして知織は思い出したように、もう一度御座布団から降りて、母の方へ膝を進めた。
「あの、これ……急でしたので、普段遣いのお裾分けなんですけど、みなさんでお召し上がりください。」
そう言って、風呂敷のように包みを開いて、俺の好きな紅茶のボックスを母へと差し出した。

「……まあ、ありがとう。……え?お菓子?……『河原町の香り』?『恋するいちご』?」
母が不思議そうに中を見ている。

「紅茶だよ。ほんとは全部俺のもんだったのに。今、1つ、入れてよ。」
母は首をかしげながら義姉に渡した。
義姉もまた、不思議そうに見ていた。

知織は2人の反応で、失敗したと思ったのだろう……真っ赤になってうつむいて小さくなっていた。

「知織さんは、茶道を習ってらっしゃるんですか?」
兄貴がそう聞くと、知織は顔を上げた。

「正式に習ったことはないんです。祖父が隠居してからお茶三昧なので少し教わりました。」
「おじいさまと言いますと……平原まゆ選手の?」
父の言葉に、知織は驚いたようだ。

「あ、いえ。平原は母方の親戚なんです。今ちょうど母方の祖父母の家に住まっておりますんで、学校だけじゃなくて家でも平原先生に会うて、変な気分です。」

「それじゃ、ご実家は東京じゃないんですか。どうりで言葉が……京都弁?」
兄貴の指摘に、知織はにっこり笑った。
「はい。京言葉はなかなか抜けませんね。どこに行ってもすぐ指摘されてしまいます。」

よく言うよ。
言葉、変えるつもりないくせに。

「有名な寺院の前貫主がおじいさんなんだって。今の貫主は叔父さん。お父さんは学者。納得した?」
俺がそう聞くと、父は咳払いをした。

「お紅茶入りましたけど、これ、すごいわ!」
義姉が、けたたましく入ってきた。

「何入れたの?」
「えーと、『パインシャワー』ですって。」
「……珍しい取り合わせだな。」
不思議そうに兄が、義姉からティーカップを受け取った。

「俺も俺も!」
知織にスーツの裾を引っ張られたけど、俺は義姉からティーカップを奪った。

常夏の島で喰うような、よく熟れたパイナップルを思い出す芳醇な香りにうっとりしながらお茶をいただいた。
「うまいよ。パイナップルと何がブレンドされてんの?」

振り返ってそう聞くと、知織は義姉からティーカップを受け取って鼻を近づけてから微笑んだ。
「マンゴーやわ。」
そのしぐさと笑顔がものすごくかわいくて、マジで抱きしめたくなった。

「……私は、変わったモノはあまり好きではないのですが……これは、素直に美味しいですね。」
父が穏やかな顔でそう言った。

「ありがとうございます。お菓子かお漬物をお持ちしたかったのですが、そう言っていただけてホッとしました。」

母は漬物が欲しかったらしく、ちょっと反応してた。
……今度京都に行ったら買って来よう。
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