おいてけぼりティーンネイジャー
思ってた通り、知織は両親にも兄貴にも好印象だったようだ。
義姉には「京都のお嬢さんって怖いわね。ずっとへらへら笑ってて何を考えてるかわからないわ。」と言われたけど……そんなこと俺に言うお前のほうが怖いよ!

結局、知織は家族に引き留められて、夕食も喰ってくことになった。
酒の勢いで父は知織に言った。
「ところで、詳しいことは存じませんが、昔、お母さまに愚息がご迷惑をかけたと伺いました。今更かもしれませんが、謝罪にうかがいたいのですが……」

俺もびっくりしたけど、知織も心底驚いたらしい。
「そんな!」
オロオロと俺を見て助けを求めた。

「……お父さん、もうちょっと待ってよ。まず俺の謝罪を受け入れてもらってから、」
「お前だけじゃ心許ない。」
父はバッサリと切り捨てたけど……今のは……知織を気に入って嫁に迎えたいって意思表示にも聞こえる。

知織は困っていたけど、俺はちょっとうれしくなってしまった。
……この歳になって、親に頭を下げさせるとは思わなかったけど。

「じゃ、一緒に行く?松の内が終わったら、俺、行くつもり。お父さんが一緒なら、『庭詰(にわづめ)』しなくてもいいかも。」
俺がそう言うと、知織が赤くなってうつむいて、蚊のなくような声で
「すみません……」
と言った。

両親も兄貴も「庭詰」の意味がわからなかったようなので、俺は得意げにネットで調べた知識を披露した。
「禅宗の僧侶が修行先に入る時の風習なんだって。けんもほろろに断られても、しつこく玄関先で土下座してなきゃいけないんだってさ。1日から数日に及ぶらしいよ。冬は寒いから、たぶん、玄関までは入れてもらえるだろうけど、念のために防寒してったほうがいいかな。」

「暎さん……もうやめて……お父さまもお母さまも呆れてはる……」
知織が俺の腕を引いて、半泣きでそう言った。
確かに、父も母もたじろいでいた。

「……じゃ、俺が行こうか?頭下げるのは慣れてるから。」
兄貴がそう言ったけれど、義姉がすごい目で知織を睨んだのを見てしまった。

うつむく知織。
……ダメだ。

「いいよ。俺のしでかしたことだし。挨拶は、知織が成人するか、妊娠した時に頼むよ。」

何の気なしにそう言ったのだが、知織は涙目でじりじりと後方に下がった。

……後で、「デリカシーがないこと言わんとって。」と怒られた。
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