おいてけぼりティーンネイジャー
「ありがとう。こんな風に歓待してもらえるとは思ってなかったよ。」
そう言いながら、さっそくお菓子をいただいた。

「馬鹿ね。一条くんを試してるのよ。もういい歳なのに、作法も知らないのね。」
辛辣な裕子の言葉に、喰ってたお菓子がのどにつまった。

「裕子……さん!って、こんなヒトだったっけ?もっと優しいお嬢さんだったような記憶が……」
確か、頭も容姿もいいおっとりしたお嬢さまなのに、幸薄そうなイメージだった!
でも、目の前の落ち着いた女性はつれない言葉を吐きながらも、むしろ幸せそうに大村さんに寄り添ってるようだ。

「このあいだは動揺して感情的になってしまったけど……今更、謝罪とかいらないから。」
裕子はそう言って、大村さんの隣に座った。

「てゆーか、一条くんが謝ることでもないと思ってるし。」
大村さんが裕子の手を握った。

「私が不用心で馬鹿な子供だったの。それだけ。」

……知織がなかなか俺に甘えてくれなかったのは、裕子譲りなのだろうか。
どんなに責められてもあやまり通すつもりで来たのに、俺は途方に暮れる想いだった。

「……いや、それを言うなら、俺のほうこそ……子供だったんだと思う。裕子を守ってあげられなくて、ごめん。傷つけて、ごめん。」
「今もあの頃と同じようにしか見えないよ、一条くん。いくつになっても夢の中に生きてる少年?……挫折もあったでしょうに。強いの?気づいてないの?」

「……わかってはらへんのですやろ。」
大村さんがため息まじりに、裕子にそう言った。
「よろしいなあ。気楽なおひとは。せやけど、うちらはたいそう迷惑してます。」

「……すみません。」
多少の反論はある気もするのだが、言えた立場じゃないことは自覚しているので、俺は頭を下げた。

「まあ、裕子のことはもうほっといてください。一条さんとは関わりのないヒトやと思ってください。もうこれ以上の謝罪も会話もけっこうですわ。」
大村さんの言葉に裕子もうなずいた。
これじゃ全然消化不良だよ……。
力不足を痛感し、俺は力なく、それでももう一度、手をついて頭を下げた。

「知織のことですけど。」
裕子が、切り出した。
「……あの子には、普通の恋愛と学生生活をして、幸せになってほしいんです。ちゃんと大学にも行ってほしい。」
俺は普通に座り直して、神妙にうなずきながら聞いた。

「優秀だよね。マジで東大合格しちゃうんじゃない?受験勉強ちゃんとやってるのに、いろんな分野の本も読み漁ってるから……俺のほうがいっつも教えてもらってます。」
何となくタメ口で話してちゃダメな気がしてきて、途中から敬語に切り替えた。
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