おいてけぼりティーンネイジャー
「アリサ。どうしよう。俺、本当に、君が好きだ。……ねえ、俺と本気で付き合わない?
俺の言葉をアリサは困ったように受け流した。

いや、マジだし!
しつこく迫ると、アリサは苦笑して首を振った。

「私、来年結婚するの。……ずっと、暎(はゆる)くんに謝りたいと思ってて……そしたら、テレビで、髪の毛のばして、歌ってるんだもん。びっくりしたけど、やっと謝れると思って飛んで来ちゃった。それだけだから。」

結婚……。

「相手、どんな奴?俺より、イイ男?」
俺は不愉快を隠せずそう聞いた。

「……暎くんよりイイヒトよ。」
イイ男じゃなくて、イイヒト、ね。

俺は鼻白んで、くやし紛れに言った。
「じゃ、とりあえず結婚まで付き合おっか。いや、アリサがよければ、結婚してからも続ければい、ってーっ!」

最後まで言う前に、アリサは俺の頬をつねった。
痛いだろっ!
慌てて頬をさすりながら鏡に向かった。
赤くなってるけど、まあ、これぐらいなら大丈夫だろう。

「ひどいな。」
苦笑してそう言うと、アリサはツーンとそっぽを向いた。

「ひどいのは暎くんでしょ。デリカシーなさすぎ。」
そう言うアリサの瞳にみるみる涙が浮かんできた。

「アリサ……」
「……やっと忘れられそうだったのに、テレビとか……やめてよね……」
てことは、忘れてなかったわけだ。

俺は心の中でガッツポーズをした。
まあ、わざわざ来てくれたんだもんな……それだけでも脈ありだな。

「いや、4年前にも出てたんだよ。全然売れなかったけど。……アリサ、気づくの遅いだろ。」
……最初のデビューの時は、すっかり忘れたような友人・知人・元カノ達から連絡が相次いだけど、鳴かず飛ばずに終わったら、波が引くように消えてった。
ま、そんなもんだろ。

再デビュー後は、静かなもんだと思ってたよ。
こんなサプライズが来るとはね。

「ま、いつまでも楽屋にいてもしょうがないし、出ようか。ゆっくり話したい。」
俺はそう言ってアリサを誘った。

「……もう遅いから、帰らないと。」
「まだ、22時ぐらいだろ?終電何時?ちゃんとそれまでには解放するよ。行こう。」

……もちろんそんな気は、さらさらなかった。
結婚が決まってるなら、期間限定、後くされなくていいや。
そんな軽い気持ちでアリサを俺の汚い部屋に連れ込んだ。

「こんなとこでごめん。親に頼らず自活しようとしたら、こうなっちゃって。」

ステージでどれだけ騒がれても、売れないミュージシャンの現実は厳しい。

食わせてくれる女を何人もキープしてないと、マジで栄養失調で倒れると思う。
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