おいてけぼりティーンネイジャー
「一条、いい曲かくよね。女性関係、雑そうなのに。」
カメラを離れた真夜中、星を見ながら2人で飲んだ。
まゆ先輩は酔って、そんなふうに言った。

「雑、ですかね。そうかもしれませんね。ありがたいことに、俺、もてるので、いつも新鮮な気持ちで歌の参考にさせていただいてます。」
俺が悪びれずにしれっとそう言うと、まゆ先輩に頭をはたかれた。
「やな奴!せいぜいカサノヴァ気取ってるがいいわ!地獄に堕ちろー!」

「まゆ先輩、酔ってますよね、もうやめましょうか。」
そう言って俺はまゆ先輩からグラスを取り上げようとしたら、逆に右手を捕まれた。

「その指輪。ピンキーリングっての?ずっとしてるんだって?恋人とお揃いとかなんでしょ?何で結婚しないの?」
俺は苦笑して、まゆ先輩に水を差し出した。

「……まゆ先輩だから、内緒の話、教えましょうか?2人だけの秘密ですよ?」
俺はそう言って、自分の右手から指輪を抜いて、まゆ先輩に差し出した。
まゆ先輩は、水を飲みほしてから、指輪を手に取って眺めた。

「何か彫ってある。わかんない。また、プラトン?」
「……それでもよかったですね。まあ、俺の純情の結晶ですかね。行き場を失ってしまって、仕方なく自分の中に封じ込めてるんですよ。情けない、女々しい男ですよ、俺は。」

俺の自嘲を、まゆ先輩はカラカラと明るく笑い飛ばした。
「一条が女々しいのなんか、一目瞭然じゃない!女以上に綺麗な顔して、髪伸ばして、頭のてっぺんから高い声だして、曲がいちいち、乙女チック!ど~こ~に~、雄々しい要素があるってゆーの!」

……確かに。
「別に女装してるつもりはないし、中味は男なんですけどね。」
そう言ってから、俺はちょっと悪戯心を出した。

まゆ先輩をじっと見つめてから、耳元に唇を近づけて吐息を送りながら囁いた。
「……試してみますか?」
本当に、軽い悪戯のつもりだったんだ。

まゆ先輩だから……甘えてたのかもしれない。
でも、俺は失敗してしまった。

まゆ先輩は目を見開いて俺を見ると、ぶわっと赤くなり……そして、俺の頬を思いっきり叩いた。
……マジ、いてぇ。
「もう!痛い~!指が折れる~!」
叩いたまゆ先輩が、ぷりぷり怒りながら手をひらひらとさせていた。

「俺もかなり痛いですよ。これ、手の痕、残るんじゃないですか?」
とりあえず、おしぼりで氷をくるんだものを2つ作って、1つをまゆ先輩に渡し、もう1つを自分の頬にあてがった。

「……明日の撮影、中止になるかもしれませんね。」
俺が苦笑しながらそう言うと、まゆ先輩は指を冷やしながらそっぽ向いて言った。

「謝らないわよ。一条が悪いんだから。」
その通りだ。
「すみませんでした。」

言葉はしおらしい謝罪の言葉だが、俺は愉快でにやけていた。
ふられても、叩かれても、気分がよかった。

何年たっても、芸能人になっても、俺に変わらない態度で接してくれるまゆ先輩。

胸がちっちゃくても、イイ女だ!
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