おいてけぼりティーンネイジャー
まゆ先輩は、本気で勝つつもりで走ったのだろう。
100と200に出場し、どちらも予選突破。
メダルには届かなかったものの、200メートルで日本新記録を更新した。
……それだけ世界の壁は厚いってことだ。

しかし、大一番で記録を出したまゆ先輩は、やっぱり本当にすごい。
なのに、日本ではメダルを取らなければ褒めてもらえないんだよな。

祭が過ぎてから、俺はまゆ先輩に新記録樹立のお祝いを送った。
すぐにまゆ先輩から電話がかかってきた。

『ありがとう。一条らしい派手なアクセサリーね。引退会見とパーティーで付けさせてもらうね。あ、パーティーはあんた達も来てね。』

引退!
「……やめて何するんですか?」

『大学の陸上部の監督と、連盟の常任委員。一条、私、偉くなるから!』
まゆ先輩は、驚くほどに前向きに次の目標を見つめて歩み出していた。

「ほんっと、カッコいいですわ、まゆ先輩。惚れ惚れしますわ。」
苦笑混じりにそう言ったけど、本音だ。
女にしとくのもったいないよ。


パーティーには、IDEA(イデア)として出席した。
せっかくなので、まゆ先輩をイメージした曲を2曲作ってって、披露した。

1曲めは、去年冗談のつもりで言った韋駄天のコミックソング。
アコースティックギター1本でコーラスを聞かせた。

もう1曲は、『ブリュンヒルデ』。 
勇敢なワルキューレが文字通り燃える恋をする……まゆ先輩の第2の人生が豊かで激しくありますように。

器用な尾崎がバイオリンでワルキューレの騎行を表現してくれて、なかなかおもしろく仕上がった。
メインヴォーカルの茂木の声がまたバッチリ合った!

俺達の歌は、お堅い年寄りの役員連中にも好意的に受け止められたらしい。
アンコールで、オリンピックの某局テーマソングを、今度はエレキギターやパーカッションを効かせて歌ったところ、ジャンルも楽器もマルチな実力を持つと評価されたようだ。
以後、世界陸上やマラソンのテーマソングをやたら依頼されることになる。
……同じテーマで違う曲を作り続けるのはかなり大変な苦行だが、ありがたいことだしな。


俺達は、着実に大きくなっていた。
曲のクォリティーや腕前だけじゃなくて、知名度も人気も売り上げも!
あとは、ヒット曲!
じわじわと売れ続けるロングヒットではなく、ドカーンと当たるヒット曲だけ。

……俺達には見えてなかったけれど、実はそれももう目前に迫っていた。
満を持して出した10曲めのシングルがやっとヒットと呼べるセールスを記録した。

最初のデビューから8年、再デビューから4年。
< 41 / 198 >

この作品をシェア

pagetop