おいてけぼりティーンネイジャー
俺達の周囲はガラリと変わった。
必要以上にチヤホヤされて持ち上げられる。

……下積み時代が長かった俺達だから苦笑して受け流せるけど……若い子が急にこういう扱いを受けたら、そりゃ~もう、勘違いしまくってろくな人間にならないよな。
な~んて仲間内で笑い合えることを、心から神に感謝したよ。

また、まゆ先輩におぼっちゃんと揶揄されるかもしれないが、実際のところ、俺はセールスの数字もヒットチャートもあまり気にしてなかった。

大切なのは、尾崎や茂木と、好きな音楽を追究できること。
俺にとっては、ライブもレコーディングも、寝食を忘れるほど没頭できる楽しいものだった。

もちろん曲が売れたら、金が入ってくる。
資金が潤沢になると、楽器や衣装、舞台装置にも凝ることができる。

……結局、稼いだ分だけパーッと豪快に使ってたな。
ま、そんなもんだろう。




「一条~。さっき事務所で聞いたんだけどさ~、今度、お前、レナちゃんの曲、作るらしいぞ。」

夕方起きて、いつものようにシャワーだけ浴びてスタジオ入りすると、尾崎の鼻息が荒くなっていた。
「レナちゃん……誰だ?」

真面目にそう聞いたのだが、その子のファンらしい尾崎に怒られた。
「何で知らないんだよ!あんなに可愛い子を!てか、お前、歌番組で何度も一緒になってるだろうが!」

「……あ~……尾崎がいつも騒いでる子か。て、どんな顔でどんな声だっけ?どうせまた楽譜も読めない子なんだろうなあ。じゃあ、尾崎がデモテープ歌ってやってよ。」

ぱあああっ!と顔を輝かせた尾崎に
「ついでに歌唱指導もしてよ。」
と、めんどくさいことを押し付ける。

俺達 IDEA(イデア)はミリオンこそ出してないが順調に売れ続け、日本の音楽界にポジションを確立した。
売れなかった時代にバックバンドやレコーディングを手伝った縁で、だいぶ前からいろんなヒトに曲を提供してきたが、最近はアイドルや若い女優が増えてきた。

……まあ、美味しいことも多いが……さすがに若すぎるアイドルの子はめんどくさい。
基本的に体育会系な俺は、敬語を使えないヤツは男も女も苦手だ。

「どんな曲が欲しいって?」
マネージャーにそう聞くと、肩をすくめられた。

「ちゃんと本人と会って打合せしてくださいよ~。レナちゃん、一条さんに逢いたがってましたよ。」
「……じゃ、代わりに尾崎に行ってもらおっか?」
冗談のつもりでそう言ってから、ちょっとひっかるモノを感じた。

「レナちゃん?……レイナじゃなくて?」

念のためにそう聞くと、マネージャーがため息をつきながら資料を見せてくれた。
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