おいてけぼりティーンネイジャー
結局俺は、ベタだけど椿姫のイメージで曲を書いた。
清純そうな、まるで椿の花のように美しい乙女だけど高級娼婦。
本当の愛を知り、富や華やかな世界を捨てる。

……その人にとって何が幸せなのかなんか、わからない。
彼女……レイナという子は、恋や愛よりも今は上昇志向でギラギラしてる。
皮肉というわけではないが、本質とは真逆なところがおもしろいんじゃないかな。


しばらくして、尾崎はレイナ……じゃなくて、レナちゃんと、付き合い始めた!
「……よかったなあ?」
と言っていいのかどうか微妙に感じながらも、尾崎が幸せそうなので生暖かく見守ることにした。

元々尾崎はかっこいいので、もてる。
ただ、趣味人過ぎて長持ちしない傾向はあるようだが、本人はいつも楽しそうだ。
その時は、半年ぐらい続いたのかな。

「お互い忙しいから、自然消滅だったな。」
だいぶ後になってから、尾崎がそう言っていた。

「まあ、女のスペアはいくらでもいるけど、お前らは……一条と茂木は、他の誰とも代われないからな。」
尾崎は酔った勢いでそんなふうにもこぼしてた。

茂木も俺も、気恥ずかしくて何も言えなかったけれど、黙ってうなずいた。
絆、だな。

「でも、スペアの効かない女に早く巡り会いたいな~。」
それも本音だろう。

「茂木は?いるんだろ?」
尾崎にそう発破をかけられて、茂木が赤くなった。

「俺のことはいいよ。一条みたいに華やかじゃないし。一条、今、何人ぐらいいるの?コンサート会場の数だけ、とか言う?」
俺は苦々しく笑った。

そこまで酷くはない。
でも、そう思われても仕方ないぐらいに、適当に会う子はいっぱいいた。
気が向いた時にいきなり呼び出しても来れる子としか続かないので、いったい今どれだけの女とつき合ってると言えるのか、自分でもよくわからない。

「ちゃんと、恋がしたいね。真面目な話ができる子と。プラトンはさすがに無理だろうけど。」
「……教授の墓じゃ、話は聞いてくれても諭してくれないしな。」
尾崎が淋しそうに言った。


俺達の音楽活動を支えてくれた教授は、2年前に亡くなられた。
IDEA(イデア)としてはもちろんだが、俺個人としても、実は教授に大きく依存していたことに、後から気づいた。
教授とお茶を飲みながらプラトンを語り合う時間が、どれだけ俺に豊かな心を与えてくれたことか。

「あのさ!俺、その、まだ返事もらってないけど、プロポーズしたんだ!教授の姪に。」
突然、茂木がそう言った。

「「さとりちゃんか!」」

尾崎はうれしそうに、俺は血の気が引くのを感じながら、2人同時にそう確認した。

やばい。

それは、かなり、まずい。
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