おいてけぼりティーンネイジャー
お兄さんは苦笑していた。
「手厳しいなあ。」
「……すみません。生意気でした。」
そう謝ってから、言葉を継いだ。

「でもうらやましいです。私はまだ、誰かにそんな感情を抱いたことがないので、理解できてへんから。」

本当は、お兄さんを好きになりかけたけど……あまりにもたくさんの女性とイチャイチャしてはるのを見過ぎた。

それに、お兄さんにとっての「特別」に気づいてしまった。
由未ちゃんとお友達の梅宮先輩、つまり妹と男。
そりゃあプラトニックな恋愛論が身近になるだろう。

「知織ちゃんが恋をしたら、相手がどんな奴でも、誰に反対されても、一途に突き進むんやろうなあ。」
お兄さんは、子供のように机にゴロリと頭を付けて、私を見上げた。
「うらやましいわ。」

うらやましい?
どの口が言うんだか。
「一途過ぎて、どん引きされたり、すぐ飽きられたりしそうですけどね。」

自嘲的にそう言うと、お兄さんは体を起こした。
「その場合はそれまでのご縁やったんやろ。素のままの知織ちゃんとぴったりの男は必ずいるから、相手を間違えたらあかんで。見極めや。女の子は男より心身ともに傷つきやすいからなあ。」

……今、一般論を諭されながらも、チラッと牽制された気がする。
俺に惚れるなよ、って。
かなわないな。
さっきの私の暴言の奥底にくすぶってる想いも、お見通しなんだろうな。

私は、開いていた本を閉じて、立ち上がりながら言った。
「私がそんな相手と巡り会った時には、恋が成就するようにアドバイスしてくださいね。」




そんな戯言(たわごと)が実現したのは、半年以上たってから。
中学二年生の夏休みに入ってすぐ、私は恋に落ちた。

その日は夜に由未ちゃんとコンサートに行くことになっていた。
由未ちゃんのお父さんは一代で財をなした成金を気にして、文化や芸術に多額の寄付や協賛をしているらしい。
おかげで、ありとあらゆる舞台や試合のチケットがもらえるそうだ。

私個人としては、歌舞伎や文楽に連れて行ってもらえるのがすごくうれしい。
でも由未ちゃんは、ミュージカルやアイドルのコンサートが好きみたい。
ミュージカルはともかく、下手なくせに歌手を名乗るアイドルのコンサートは耳栓が欲しくなるが、それでも、知らない世界を見聞できることが楽しかった。

ただ、両親には言いづらかったので、コンサートに連れて行ってもらう日は、いつも由未ちゃんの家にお呼ばれとかお泊まりということにさせてもらっていた。
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