おいてけぼりティーンネイジャー
「じゃ、行ってきまーす。」
「遅くなりそうなら連絡しなさいね。お父さんに迎えに行ってもらうから。いつもいつも由未ちゃんのお家の車に送っていただいてたらダメよ。」
「はぁい。お父さん、携帯電話貸して~。」
「おひいさんのお願いやったら、しょうがないなあ。楽しんでおいでぇや。」
私は父から携帯を借りると、両親に手を振って家を出た。

バスでぐるりと大回りしつつ南下する。
夕方来る予定のコンサートホールを横目に公園を歩く。

ツアートラックって言うのかな?
大きくペイントされたIDEA(イデア)の文字に、こっそりほくそ笑む。
どんなグループなんだろう。
下積みの長かった実力派J-POPグループらしいけど、私の興味はただ1つ。
プラトンのイデアのつもりなら、それなりの世界観を持っててほしいな。

広い区画の門をまがると、目的地の図書館がある。
由未ちゃんとの待ち合わせは10時。
……あれ~?
決して時間にルーズではない由未ちゃんが来ない。
早く入って、場所取りしたいんだけどなあ。

私達は2人ともまだ携帯電話を持たせてもらっていない。
仕方ないので、とりあえず由未ちゃんのお家に電話をかけてみた。
『もしもし。竹原でございます。』
よそゆきのイイ声で電話に出たのは、お兄さんだった。

「おはようございます。大村です。あの~、由未ちゃんと10時に待ち合わせしてるんですけど……由未ちゃん、何時頃出はりましたか?」
お兄さんの声が親しげに変わった。
『知織ちゃんか。おはよう。由未、まだ起きて来てへんわ。ちょぉ待ってな。起こすし。』

「あらら。や、いいですよ。急がなくても。私、先に入ってますから。」
そう言ってみたけど、お兄さんは受話器を持ったまま由未ちゃんの部屋へと行ってくれたらしい。
保留音が途切れると、由未ちゃんが慌てふためいてる様子が伝わってきた。
「もしもし?由未ちゃん?おはよう。」
『ごめん!知織ちゃん!寝坊した!すぐ行くっ!』
バタバタといろんな音が聞こえる。

「うん、お兄さんに聞いた。急がなくてもいいよ。私、先に図書館に入ってるね。由未ちゃんは、これからやったら、お昼を一緒に食べるつもりで来てくれたらいいし。どうせコンサートは夜やし、ほんまに、ゆっくりでいいしね。」

私がそう言うと、後ろのガチャガチャした音が少し静かになった。

『わかった!ほな正午に図書館の入口のとこで!ごめんな!待ってて~。』
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