おいてけぼりティーンネイジャー
それでは、と、私は図書館へ入った。
天窓から光の射し込む地下の明るい閲覧机を2つキープすると、メモしてきた読みたい本をカウンターで請求した。
50年以上前の漫画だけど、戦時下の生活をほのぼのと描いているらしい。

しばし待って本を受け取ると、ついでに貸りる手続きもした。
貴重な本を抱えて、うきうきと弾む足取りで大型図書の書架へ行く。

夏休みの宿題の参考になりそうな本はこのあたりかな~。
由未ちゃんが来てから相談したほうがいいかな。
うーん。

仏像の本を引きずり出したけれど、欲しいものとちょっと違う。
私は端末に向かって閉架図書を検索した。

いくつもの本のデータをプリントアウトしていると、背後から強い目線を感じた。
振り返ると、男の人が立っていた。
私ではなく、先ほど取り出した本と仏像の大型図書、そして端末の画面を眺めているようだった。

「……使わはりますか?」
代わってほしいのかな、と思ってそう聞いてみた。

「いや……あ……どうも。」

どっちや?
歯切れの悪い返答に首を傾げながら場所を明け渡す。

が、彼は端末の画面よりも私の抱えた本が気になるようだ。
隠さない執着心が子供みたいで、ちょっと笑えた。
いい大人なのに。

「読みますか?」
「え!いいの!?」
ぱあああっとその男の人の顔が輝いた。

……京都のヒトじゃないんや。

「今ココで読んでくださるなら、どうぞ。私は借りて帰りますから。……あっちの机にいてますから、読み終わらはったら声をかけてください。」
そう言って本を渡す。

「ありがとう。」
立ったままパラパラとページをめくり、そのヒトはもう読み始めた。
早っ!

でも、私も読みたい本を見つけると帰宅するまで待ちきれず読みながら歩いてしまうので、気持ちはよくわかった。

私は黙ってその場を離れると、プリントアウトした閉架図書のデータを請求カウンターに持って行った。

何冊も積み上げて閲覧机で読んでいると、さっきの男の人が本を返しにきた。
「すごく懐かしかったよ、ありがとう。……何かおもしろそうな本ばかりだね。」
積み上げた本のジャンルは確かにバラバラでおかしかった。

……てか、あの漫画、読んだことあるのか……マイナーなのに珍しいな。
「でも、こんなのあるような館に見えないんだけど……」
不思議そうな彼に、小声で言った。

「ここ、書架に並んでる図書は全然なんですけどね~、閉架図書はすっごく充実してるんですよ。一見(いちげん)さんは、わざわざ閉架図書の請求なんかしはりませんから、観光地にあるくせに不親切やとは思いますけど。」

彼は、にやりと笑ってうなずいた。
「京都らしいね。」

……そうかもしれない。
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