おいてけぼりティーンネイジャー
「もちろん私も、つまんない本に当たって後悔すること多いですよ?」
むしろ、感銘を受ける本なんてわずかしかない。
「でも口惜しいから、同じ分野の似たような本の中にもっとおもしろいのがないか、片っ端から読んじゃいます。」

そう言いながら、借りてきていた本を見せた。
「今回も、これは失敗でした。難しすぎて。」

ロマンティックな星座にちなんだタイトルを付けた天文の本。
でも中には、見たことのない記号をいくつも使った難しそうな数式がいっぱい。
全く理解できない。

「あ~……これは。物理がわからないと無理だな。てか、この内容でこのタイトル、ずるいよな。」
私から受け取った本をパラパラとめくり、彼はポイッと乱雑に放り投げた。

ちょっと!
慌てて本を拾って彼を見上げて怒る。
「本を粗末に扱わないでくださいっ!」
強くそう言ってしまって、慌てて人差し指を自分の唇にあてた。
しーっ!……って……いや、うるさいのは私だった。

あたふたしてる私はそんなにおかしかったのだろうか、彼はぷっと吹き出してから、声をあげて高らかに笑った。
いや、だからお静かに!ってば!
「しーっ!しーっ!もう~~~!」

他の人がジロジロ見ている。
怒られるよ~。

でも彼は、周囲を気にしてオロオロしてる私がツボらしく、楽しそうに笑い続けた。
屈託のない笑顔が太陽みたいにまぶしくて……私まで笑えてきた。

変な人。
でも、目がそらせない。
離れられない。
この人が何を考えているのか、知りたい。

「……お静かに。他のかたに迷惑です。」
当然のように、私達は職員さんに怒られた。
「すみません!」
そう謝って、散らかった、というか、彼が読み散らかした本を綺麗に積み直した。

すると、返却すると勘違いされたらしく、職員さんは本の山を持って行ってしまった。
あ……私、まだ読んでないのに。
恨めしげに彼を見ると、彼はまた笑い出した。

やめて~。
本を持った職員さんだけじゃなく、周囲のヒト達も白い目で見てる。
い……いたたまれない。

「ちょっと一旦、出ましょうか!」
私は荷物を鞄に放り込むと、彼の腕を引っ張った。

「あはは!わかったわかった!」
ぐるりと円を描く階段を上がってる間も、彼は笑い続けていた。

一旦外に出たけれど、やっぱり暑いので、中の休憩スペースのベンチに座った。
「あ~、のどカラカラ。何か飲む?」
やっと笑いを納めた彼は、目の前の自動販売機の前に立った。

「あ、ありがとうございます。じゃあ、ウーロン茶を。」
「ウーロン茶、ね。」

彼がそう確認するのを聞きながら、さっき適当に入れてしまってガチャガチャになってる鞄を整理し始めた。
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