おいてけぼりティーンネイジャー
どのぐらい、ぼーっとしてたのか……気づいたら由未ちゃんが目の前にいた。

「由未ちゃん……」
心配そうな由未ちゃんの瞳に、私の胸がまた疼きはじめた。

「どうしたの?何か悲劇でも読んだ?」
……悲劇?……ううん、これは悲劇じゃない……ロマンス、よね?

私は、ゆっくり首を横に振ってから、口を開いた。
「私……私……」
自分の声じゃないみたいに、震えてる。

「うん?」
由未ちゃんは、急かさないように私の言葉を促してくれた。

「好きになっちゃった……みたい……」
言葉にすると、陳腐な気がする。

でもやっぱり言葉の力は強くて、私は身体中に熱い血が駆け巡るのを感じた。
……好きになっちゃった……んだ。

「誰を!?いま!?ここで!?」
由未ちゃんにそう聞かれて、はたと思い当たった。

彼は、誰?
……そんな基本情報も交換しなかったんだ。
あんなにいっぱい話したのに、私、何やってんだろう。

涙がぶわっとこみ上げて、ほろほろとこぼれ落ちていく。
「わからない……名前も、聞けなかったの……」

泣きじゃくる私を、由未ちゃんは図書館の外へと連れ出した。
隣の公演のベンチに並んで座って、ことのあらましを報告をした。
本の話を楽しそうに聞いてくれたことを。

「……かっこよかったの?」
由未ちゃんにそう聞かれて、私は彼を思い出そうとした。
印象的な目とか白い肌とかぐらいしか言い表せない。
でも、たぶん彼がどんな外見だったとしても、結果は同じだったと思う。

「どうかな。醜くはなかったよ。外見とか年齢じゃなくて、彼の精神(こころ)に惹かれたから……。」
そんな風に答えると、由未ちゃんは素っ頓狂な声を挙げた。
「年齢って!おじさんだったの?」

どうかな?
「さあ?……完全にギラギラしたおじさん、じゃなかったけど。20代後半から30代前半ぐらいかなあ。心は10代、って感じだったけど。」

皺はなかった、と思う。
お腹もせせり出てなかった。

由未ちゃんがため息をついてから、重ねて聞いた。
「どんな格好?スーツ?」

「普通に白いTシャツとジーパンにスニーカーだったよ。」
……だから指輪がさらに印象的だったのかもしれない。

「彼を探す手がかり、あるの?連絡先はもちろん聞いてへんよね?名前も聞いてへんぐらいやし。」
あ、探さなくても……明日、また逢えるんだ。

彼との約束を思い出して、私は一気にテンションが上がった。
頬が熱い。
「あ、あの……何も聞いてないねんけど……明日の午前中も来るって。」

由未ちゃんはホッとしたように笑ってくれた。
「じゃあ、明日こそメアド交換して、名前も聞かんとね。一人でできる?私も来ようか?」

優しい……。

私は由未ちゃんの心がうれしくて、その手をぎゅっと握った。

「ありがとう!私一人じゃ、本の話はできても、それ以上はとても無理!お願いします!」
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