おいてけぼりティーンネイジャー
18時前に、お兄さんと別れて、コンサート会場のホールへと入場した。

「パンフレット買う?」
由未ちゃんにそう聞かれたけれど、安いものではないので慎重になった。
「ん~……終わってから考える。」

グッズショップを素通りし、私達は会場に入り、お席についた。
2列め、サブセンター、通路横。
ステージにものすごく近い。

会場では、既にファンが立ち上がり、手拍子で、IDEA(イデア)の登場を待っていた。
照明が消えて、ステージにメンバーがスタンバったらしい。
カチカチカチ……と、ドラムスティックが交わる小さな音がして、ステージがパッと明るくなった。
大音量の音楽が、バーン!と積み上げたアンプから押し寄せる。

音と光の洪水に顔をしかめたが、ステージを見て……我が目を疑った。
目の前で派手なエレキギターをかき鳴らしているのは、あの人!
午前中に図書館で出逢った、彼だ!

……イデアのメンバーだったなんて!
嘘みたい。

あの時、彼が言っていた言葉を思い出した。
イデアの世界で遊んでるって?
まったく……イケズやわ……先に言ってよね……。

涙がホロホロとこぼれ落ちた。
嗚咽をこらえようと、両手で口を覆う。

涙、邪魔。
ちゃんと見たい。
一秒も一瞬も、見逃したくない。

1曲終わって、歓声と静寂の間に、私はステージから目を離さずに由未ちゃんに伝えた。
「由未ちゃん……あの、ギターの人なの……私が好きになった人。」

「はあっ!?」
由未ちゃんが驚いていたけれど、すぐに次の曲が始まったようだ。

彼が一歩前に出てきて、ソロでギターを泣かせた。
キュイ~ン!と、高い音が響き渡る。

あ、右手小指にあの指輪!
ライトを浴びてキラキラ輝いている。

ううん、指輪だけじゃない。
彼も、何て素敵なんだろう。

今度こそハッキリ言える。
かっこいい!

2曲めが終わると、ボーカルを取っていた左端のヒトがハンドマイクで挨拶とメンバー紹介を始めた。
メインで歌っていた左のヒトが茂木さん、真ん中でパーカッションとアコースティックギターを弾いていたのが尾崎さん、そして、私達の前でエレキギターを弾きまくっていた彼は、リーダーの一条 暎(はゆる)さん。

「はゆるさん……暎さん……」

私は、声に出して何度もつぶやいた。
やっとわかった彼の名前さえもが愛しくて。

3曲めは暎さんがメインボーカルの曲だった。
ギターから目を離して、客席をぐるっと見回しながらあの高い声で歌う暎さんは、切ないぐらいに素敵だった。

サビの部分で、暎さんと目が合った!

私に気づいたらしく、暎さんは太陽のような笑顔を向けてくれた。
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