おいてけぼりティーンネイジャー
キューンと胸が甘く疼いた。

暎さんは、途中でスタンドマイクから離れて前まで出てくると私に向かってやたらアピールしだした。

わかったから!
私はコクコクと何度も大きくうなずいて見せた。

その後も暎さんは、ギターのピックを放ってよこし、拳を挙げて見せ、ウィンクまでくれた。
まさに「一本釣り」状態だった。

嵐のような2時間半の後、アンコールで出てきたメンバーはバロック楽器を持っていた!
茂木さんがソプラノリコーダー、尾崎さんがバロックオーボエ、そして暎さんはバロックギターを抱えていた。

まさか……とは思ったけど、そのまさかだった。
私が好きだと言ったド・ラヴィーニュのタンブーラン!
続いて、テレマン。

すごい!
あの後、慌てて練習してくれたんだろうか。
テレマンはともかく、ラヴィーニュなんか普通しないだろうに。

暎さんの笑顔に泣きそうになる。
……どうしよう……やっぱり好きだ。
こんな、芸能人だったなんて。
別れ際に暎さんが、何があっても明日来るように、って念押しした意味にやっと気づいた。

演奏の後、茂木さんがMCで言った。
「え~、今お送りしました曲は、何と、今日!一条がやりたいと言い出しまして、急遽練習いたしました。彼の無茶ぶりには慣れてるつもりですが……スコアも手元にない状態で!ですねえ、これは、もう、さすがに!……大変でした。」
会場が笑いに包まれる。

……暎さん、いつも無茶ぶりするんだ……。
暎さんは気恥ずかしいらしく、脇に引っ込んでしまった。

「そしたら尾崎がですね、なぜか覚えてて譜面に起こすんですよ。さすがだよね~。ねえ?」
茂木さんと尾崎さんが笑い合って、暎さんのワガママを叶えてくれたことを知り、胸が熱くなった。

お友達同士の絆かぁ。
素敵だな。

暎さんは、ジャケットを脱いで、ひらひらのシャツになってステージに戻ってくるとマイクを握った。
「え~、今夜最後の曲になりますが、明日も」

「明日じゃねーよ!」
茂木さんが笑いながらツッコんだ。

暎さんは茂木さんに笑って手を挙げてから、私にニッと笑ってみせた。
確信犯だ。
……明日ちゃんと来いって、私に言ったんだ。
私は暎さんから目を離さず、小さくうなずいた。

暎さんは晴れ晴れとした顔で、
「……これからも、俺達を信じてついてきてください。心を込めて、歌います。」
と言ってから、エレキギターを高音で鳴かせた。

こんな機械を通した音楽が……こんなにも心を打つなんて……私は知らなかった。
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