おいてけぼりティーンネイジャー
最後の曲は、初恋が永遠に続く、みたいな歌詞だった気がする。

♪本の森♪
♪本の海♪

というフレーズに、シチュエーションは図書館なのかな、と思った。

これは昔からある曲なんだろうけど、やっぱり意識して選曲してくれたのだろうか。

ステージから私を見つめる暎さんの瞳に宿る熱を私は確かに受け止めた。


アンコール2回が終わっても、客席は手拍子をやめなかった。
何度も終了を告げる女性の声のアナウンスが流れたが、その度にアンコールを求める声と手拍子は力強くなった。
ファンのパワーに圧倒されそう。

キョロキョロしてると、暎さんのイイ声でのアナウンスが流れた。
「本日のコンサートは終了いたしました。えー、寄り道せずに、まっすぐお帰りください。またのお越しを、お待ち、して、ます。」
すると、会場に大きな拍手が起こって、やんだ。

そして、みんなが帰り支度をはじめて、出口へと流れはじめた。
……暎さんのアナウンスがあるまではアンコールを続けるって、暗黙のルールでもあるのかな。

私達もまた、人の流れに従った。
「一条さん、めっちゃ知織(しおり)ちゃんのこと、見てたねえ。」
由未ちゃんが興奮してそう言った。

うん、私もそう思った。
思ったんやけどね、他のファンの人達も同じように騒いでるのだ。
目が合った、視線もろた、ウインクされた、ずっと私のこと見てはった……等々。

もしかして、ただの痛いうぬぼれやったんかも。
ま、いいや。
幸せだから。

あまりにも夢見心地でボーッと歩いてたので、グッズを買うのを忘れて出てしまった。
「由未ちゃん……パンフレット……欲しい……」
慌てて引き返したけれど、もう入口を閉められて、入れてもらえなかった。

あー……。
ぼんやり途方に暮れてると、由未ちゃんが私の両肩を持って揺さぶるようにして目を覗きこんで言った。

「大丈夫!?とりあえず、車、乗って!」
車……あ~、お迎え来てもろてはるんや……。

私は父にお迎えに来てもらうことも、すっかり忘れてた。
あまりにも呆けている私に、由未ちゃんが言った。
「知織ちゃん、今日、うちにお泊まりしよう!お兄ちゃんと対策練ろう!これは、あかんわ!」

「あ……うん……よろしくお願いします……」
「電話電話。お家に電話して。荒井さ~ん、電話貸して~。」

運転手さんに電話を借りて、由未ちゃんはうちに電話をかけてくれた。

……お父さんの携帯電話、今夜返せない……ごめん……お父さん……。
< 69 / 198 >

この作品をシェア

pagetop