おいてけぼりティーンネイジャー
由未ちゃん家に到着後、お父さまとお母さまへの挨拶もそこそこに、お兄さんの部屋へと引っ張り込まれた。

「お兄ちゃん!大変!知織ちゃんの好きになった人って、IDEA(イデア)の一条 暎(はゆる)さんやってん!どうしよう!!」
「……それは……確かに……」

お兄さんは、すぐにスマホやパソコンを駆使して、暎さん情報を集めてくれた。
現在30歳……ちょうど30歳のお誕生日に長かった金色の髪を切ったらしい。

長髪時代の画像や映像を見せてもらって、驚いた。
これは、何だろう。
女性に見間違えることはないけれど、ものすごく綺麗だ。

……時代と国が合ってない?
まるで中世の王子様だ。

「タイミングやねえ。もしも髪を切らはる前に出逢ってたら、ドン引きして終了やったかも。」
私がボソッとそう言うと、竹原兄妹は揃ってぶんぶん首を横に振った。

「知織ちゃんやしねえ、外見は関係ないと思うわ。てか、髪を切って黒く戻してはる今かて、どう見ても一般人じゃないやん!」
「でも、確かに、現実的じゃない、霞(かすみ)喰ってる、永遠の少年かもな。間違ってへんよ、やっぱり、知織ちゃん、先入観なしで、よく見抜いてるよ。」

からかわれても、褒められても、笑えない。
「……正直に答えて……くださいね?私……痛い勘違い女……じゃないですか?」
コンサート会場で目が合ったと喜んでたファンと同じ立場でしかないのに、猛進しようとしてるんじゃないだろうか。
相手が芸能人とわかって臆病になったのかもしれない。

でも、お兄さんはクスッと笑って、叩いたのか撫でたのかわからないけれど、頭をポンポンッとしてくれた。
「知織ちゃん、かわいい。大丈夫だよ。ちゃんと明日、見極めてあげるから。あざといけど、作戦も授けたろ?」

お兄さんの言う作戦は、もし連絡先を聞ける雰囲気にならなかったら、早めに切り上げて、私のお財布に生徒証入れたのを一条さんが拾うように仕向けて帰る、という、本当にあざといものだ。
普段の私なら、そこまでやりたくない、と拒絶したかもしれない。
でも今の私は、無双だ!
何でもやってやる!


翌日、再び由未ちゃん家の車で、私達は図書館へと向かった。
9時半の開館と同時に中へ。
竹原兄妹は地下1階奥で大型図書を閲覧しているふりをして待機してくれた。

私は、昨日とはまた違う仏像の目録を請求して眺めていた。
……やっぱり、いない。
おかしいなあ。

「昨日から、何、探してるの?真剣な顔して。」
背後からそう声をかけてきたのは、暎さん!

「おはようございます。……私の一番好きな仏像なんですけどね……なぜか目録にないんです。」

……もっと緊張するかと思ってたのに、自分でも驚くほど自然に話せた。
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