おいてけぼりティーンネイジャー
本というツールがあると緊張しないのだろうか。

「おはよ。ん~?どこの仏像?俺もけっこう好きで、あちこち見てるよ。知ってる仏像かなあ。」
そう言いながら、暎さんは私のすぐ隣の席に座った。

……近い。
ちょっとドキドキ。

「国立博物館の常設展にいてはるんです。せやし、博物館の目録にいてもいいはずなのに……何でかなあ。」

「博物館かあ。寄託じゃないの?」
「キャプションにそんな風に書いてへんかったんですよ。」

うーん……と、2人で首をかしげていて、パッと目が合った。
どちらからともなく、ふっと微笑み合った。

「「夕べは、」」

同時に同じ言葉を言った!
……心もシンクロしてる……気がしてきた。

どうぞ、と譲ると、暎(はゆる)さんはうなずいた。
「夕べは、ありがとう。」

やっぱり!

「私も、同じことを言おうとしてました。……夕べは、ありがとうございました。」
「参ったね。」
彼はクスクスと楽しそうに笑い始めた。

……昨日のように大笑いしないでよ~。
ちょっとハラハラしてると、暎さんは笑いを納めて、真面目な顔で言った。

「君のことが知りたい。俺、一条 暎(はゆる)。30歳。IDEA(イデア)のリーダーやってます。これ、連絡先。」
そう言って暎さんが差し出したのは、何と、免許証!?
見ろ、ってことかな?

「……普通、名刺とか渡すんじゃないんですか?」
手にとって拝見する……本名なんだ。
現住所……いいのか!?見ても。

「名刺持ってないもん。あ、今、住所そこじゃない!ちょっと待って。」
そう言って、暎さんは免許証の後ろに新たな住所を書き込んでから、もう一度私に手渡した。
……いや、渡されても……これは、もらえないし。

「免許証って、電話番号とか書いてないんですね。連絡手段は、お手紙がいいんですか?」
暎さんは、ハッとしたようだが、ちょっと考えてうなずいた。
「手紙くれたらすごくうれしい。面倒でなければ、送ってよ。でも、電話もしていい?番号教えてよ。」

私はちょっと口ごもったけど、隠しても仕方ないので言った。
「私、まだ携帯電話を持ってないんです。今は父のを借りて持ってますけど。家の電話じゃダメですよね……?メールアドレスはありますけど……。」

暎さんは顔をしかめた。
「メール、めんどくさいから、やだ。じゃ、これから携帯買いに行こうよ。俺が契約するから、君は持ってるだけでいいから。」

は!?

「そんな!親に怒られますって!」
「隠してればいいよ。ね。昨日のジュースのお礼。」

……何百倍返しなんだ!

「じゃ、行こう。」
けっこう強引に手を取られて引っ張られる。

うわ……手の色が違い過ぎる。

暎さん、白~い!
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