おいてけぼりティーンネイジャー
あ!そうだ!

私は慌てて、竹原兄妹が潜んでたあたりを振り返った。
……既に2人は姿を消していた。

図書館を出てからも、暎さんは私と手をつないで歩いていた。
タクシーに乗ってる間も、ドコモショップに着いてからも、ずっと。

ドキドキとはしていたけれど、不思議と緊張はしてなかった。
むしろ安心できて、楽しくて、うれしくて。
すっかりテンションが上がっていた。


ドコモショップのお兄さんはIDEA(イデア)のファンだったらしい。
「騒がれますから!どうぞ、こちらへ!」
と、他のお客さんからは見えないパーテーションの奥の応接室みたいなところに案内してくれたけど、彼自身が一番騒いでいた。

暎(はゆる)さんは慣れっこらしく、サインを請われてあっさり書いてあげていた。
しかし、契約に必要な暎さんの免許証を私が提出したり、暎さんが私の名前と住所を知らないことには、ものすごーく不信感を抱いたようだ。

「知織(しおり)、か。かわいいだけじゃなくて頭のよさそうな名前だね。知織にピッタリだ。」
……いきなり呼び捨てなのね……子供扱いじゃなきゃいいんだけどさ。

しばらく待って、私は最新のスマホを買ってもらってしまった。
受け取って、真っ先にしたことは、暎さんとの連絡先交換。
「よし!これで24時間いつでも連絡できる!知織もいつでもかけてくれていいよ。でも手紙もちょうだいね。」

……手紙、そんなに欲しいんだ。
私には暎さんの手紙に対する執着がおかしくてしょうがなかった。

これはジェネレーションギャップなのかな?

「じゃ、飯(めし)行こ。」
お昼ご飯に連れていかれたのは、有名な料亭。

「まあまあ、よぉおこしくださいました……あ……」
玄関で迎えてくださった女将が、暎さんを見て絶句した。
「こんちはー。」

暎さんに続いて私も入って、深々とお辞儀をした。
女将は再び
「あ……」
と、絶句した。

慌てて私は、暎さんに見えないように、唇に人差し指を宛てて「お願い!何も言わないで!内緒にして!」と女将にジェスチャーした。
女将は目を丸くして、暎さんと私を何度も見ていたけれど、やっと飲み込んでくれたらしい。
「どうぞ~。」
と、目の笑ってないアルカイックスマイルを浮かべて、案内してくれた。

暎さんが連れてきてくれた料亭は、お料理もしつらいもおもてなしも一流。
ゆえに、父も母もお気に入りで……我が家は何かとココを使うのだ。
頻繁ではないけれど小さい頃から来ていたので、当然、大将も女将も下足番のおじいさんも仲居さんも顔見知りだ。

両親に告げ口されないようにお願いしなきゃ。

私は美味しいお料理をいただきながらも、気が気でなかった。
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