おいてけぼりティーンネイジャー
「話なら電話でもできますよ?スマホ買ってくださったし、連絡先も交換したじゃないですか。」
「じゃ、次、いつ会える?俺、ツアーで全国廻りながら、合間に東京帰って、曲作って、レコーディングして、メディアにも出るんだよ。」

……やっぱり子供だ、このヒト。

「私も、今は夏休みだけど、二学期始まったら学校あるんで平日は無理。夜も無理。てか、せっかくスマホいただいても、親にバレないようにと思ったら、家では話せませんね。」
別に喧嘩を売る気はないけど、忙しいのは暎さんだけじゃない!と、そんな風に言ってみた。

想いは通じたらしく、暎さんはしょんぼりした。
「ごめん。大人気(おとなげ)なかった。」

……今更?
プッと笑ってしまった。

「私まだ、暎さんが大人(おとな)な振る舞いしてるの、見たことないんですけど。」
暎さんの白い頬が赤くなった。
「そうかも。俺、昨日から浮かれっぱなしで、なんか初恋とか思い出しちゃってさ。知織を逃がしたくない!って、焦燥感に駆られてるみたい。」

初恋……。
昨日のコンサートの最後の曲を思い出した。

「図書館で恋に落ちたんですか?初恋。」
「……内緒。」

何でやねん!
歌にしてたくせに。

「……ふぅん。」
ちょっと、気持ちがひねくれた。

30歳の暎さん、しかも華やかな世界の住人だし、恋愛経験豊富に決まってる。
隠す意味がわからない。


「常設展、こっちです。」
暎さんの前をズンズン進んで、建物へと入った。

「へえ。……て、いきなり、重文と国宝がこんなに!?何、ここ!」
だって、京都の博物館やもん。

子供のように目を輝かせる暎さんを尻目に、出品物の目録をざっと見た。
私の大好きな仏像はお休みのようだ。

あーあ。
会いたかったな。
……暎さんに、見せたかったな。


不意に淋しさが襲った。
私、何やってんだろう。
せっかく暎さんと一緒にいるのに、拗ねてる場合じゃない!

グッと両手を握った。
意地を張らず、策を弄さず!
由未ちゃんのお兄さんの言葉を思い出した。

暎さんは、私に大人の恋愛の駆け引きなんかを求めてない。
初恋、のときめき。
正直よくわからないけど、私自身が今、暎さんに初恋中。
……もしかしたら、お兄さんが初恋かもしれないけど、私は敢えてカウントしないことにした。
いや、よく言われるように、「初恋は実らない」というなら、お兄さんを初恋にさせてもらうけどさ。
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