おいてけぼりティーンネイジャー
「暎さん。今日はお目当ての仏像、お休みでした。……出ませんか?」
さっきから、女子大生ぐらいの女のヒトが暎さんに気づいてチラチラ見てる。
携帯で写真を撮るのは警備のバイトのかたに怒られて諦めたみたいだけど。
「……人目(ひとめ)も気になりますし。」

暎さんは展示物に後ろ髪を引かれてるようだけど、黙って庭についてきてくれた。
「ロダンの考える人!へえ!ここにもあったんだ!」
テンションの上がった暎さんは、像の周囲をぐるぐる回った。
……どこに居ても目を引くヒトなんだろうな……。

「暎さん。昨日、最後に演奏した曲。あれ、初恋を歌ってるんですよね?」
私の質問に、暎さんが足を止めた。
「……内緒、じゃダメみたいだね。俺の過去、気になる?」
困った顔の暎さんを見て、気づいた。

そっか、単に意地悪とか秘密主義とかじゃなくて、過去の恋愛で私にドン引きされるのが怖いんだ。
もしかしたら、年の差を気にしてるのは、私以上に暎さんなのかもしれない。

私は、すーっと深呼吸をしてから言った。
「ごめんなさい、いじめるつもりじゃないんです。ただ、伝えたくて。」

「ん?告白してくれんの?俺、かっこいい?」
茶化す暎さんに苦笑して、それでも続けた。

「はい。私、昨日、図書館で暎さんを好きになりました。初恋。暎さんと一緒ですね。」

言ってるうちに頬が熱くなったのを感じたけれど、目の前の暎さんはたぶん私以上に赤くなり、口元が緩んで、慌てていた。


「一緒、か。はは……俺、運命だと思うよ。」
まだにやけてる口元を隠すように手を当てながら、暎(はゆる)さんは言った。

「……大きく出ましたね。昨日の今日で。」
調子のいい暎さんにそう言うと、暎さんは表情を改めた。

「いや、本当に。……俺、女の子を本気で好きになったの1人だけなんだ。中3の時、図書館で出逢った子。それ以来のときめきで、あの時以上に楽しくてワクワクしたんだ。昨日図書館で知織に惹かれたの、絶対!運命だよ。」

……私、その初恋のヒトの身代わりですか?……てのは、ちょっと卑屈過ぎるかな。

「私にとっても運命だと思います。でもだから困ってます。芸能人って最初にわかってたら好きにならないのに。」

続く私の本音に、暎さんの顔色はサッと青白く変わった。

……色が透けるように白いから、わかりやすいんだろうな。
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