おいてけぼりティーンネイジャー
「でもさあっ!」
暎さんが頭のてっぺんから夏空に突き抜けるような高い声で言った。

「俺が音楽やってなかったら、京都に、それも図書館に来ることなかったよ?そしたら知織に逢えなかったよ。……てか、芸能人って言い方、嫌だな。」

「あ、そうなんですか。じゃ、業界人?」
「ミュージシャン!」
胸を張る暎さんは妙に可愛かった。

「ミュージシャンですね、わかりました。ミュージシャン暎さん30歳と、ただの中学2年生じゃ、釣り合うところがひとっつもないのに……ないはずなのに……感じるんです。心が共鳴してるのを。……私のうぬぼれでしょうか?」
やっと言いたかったことを言い切って、私は、は~~~~~~っと脱力して座り込んでしまった。

ミュージシャン暎さんは、私の前にドカッとあぐらをかいて座り込んだ。
「汚れますよ?」

「別にいいよ。そんなことより、うれしいよ。知織も同じように感じてくれてるってわかって。やっぱり運命なんだよ。」
暎さんの瞳がキラキラと輝いている。

「子供みたいな目ぇしてはるわ。」
私がそう言うと、暎さんはうなずいた。

「そうだと思うよ。俺、知織と話してると、自分の歳も立場も忘れて対等な気がする。」
「対等……」
私は、それだけでもう胸がいっぱいになった。


「知織、14歳、か。……淫行になっちゃうかぁ。」
暎さんのぼやきに、うなずいた。

「犯罪ですね。あと4年たたないと。」
ふふっと笑いながらそう言うと、暎さんは真面目くさった顔になり、私をじっと見た。
「俺が犯罪者でも、いい?」

どういう意味だろう。
手を出してもいいか、と聞かれたわけではないことは明白だ。

過去に何かやらかして、前科一犯?
それとも、違法ドラッグとか、ゴーストライターとかが、現在進行中?

私も、じーっと見つめた。
暎さんの瞳は濁ってない。
今は、不安に揺れているけれど、それでもまっすぐ私を見つめる瞳を、私は信じた。

「暎さんが、好きです。犯罪者でも。」
自分の言葉にぶるっと震えが走った。

それからはたわいもない話ばかりだったけれど、2人とも本気ではしゃいでた。
真夏の午後なのに、木陰を通る風から得られるわずかの涼を頼りに、延々と話し続けた。

気付けば、閉館時間が近いアナウンスが流れていた。
「さすがにもう、帰らはらへんと。」

そう言うと、暎さんもうなずいた。
「……また、来るよ。」

ちょっと、苦笑した。
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