おいてけぼりティーンネイジャー
「無理なさらないでください。忙しいんでしょ?」
イケズ言うたつもりはなかったけれど、暎さんは拗ねた瞳になった。

「来るよ!今月はもうきついけど、来月来るよ。」
その後パッと顔が輝いた……何か思いついた子供みたい。
「ねえ!夏休みだろ?知織、東京に来ない?埼玉で千葉でも神奈川でもいいよ!」

え……。

「夏の野外イベント、来ない?」

イベント……。
行きたい。
でも、行けないよ。

私は力なく首を横に振った。
「親に内緒で行ける範囲じゃないわぁ……」

暎さんは、くしゃっと顔を歪めた。
「だよな!中学生だもんな!……気にしなくていいよ。ほんとに、俺、来るから。」

無理させちゃうんだろうな、って思うと悲しくなった。

「大丈夫だよ。待ってるから。知織が自由になるの。」

自由……。
自由って、どんな状態だろう。

「それまでは、プラトニックだな。」
暎さんは自分に言い聞かせるようにそう言った。

その日は、そのまま、ロダン像の前で別れた。
本当は暎さんを可能な限り見送りたかったけれど、人目が怖いので諦めた。

独りになってから、ロダン像を見上げて……決めた。
高校は東京に行こう。
どうせ大学は東京に行くつもりだった。
母方の祖父母の家から東大に通うって、小さい頃から決めてた。
3年前倒しにするだけのこと。

うちの学園の姉妹校を受験しよう。
そこで今より勉強して、ちゃんと目標通り東大に行こう。

……全然自由じゃないけど……それでも、私は自由に一歩近づく気分だった。


帰宅してから、ネットで「IDEA(イデア)」と「一条 暎(はゆる)」を検索しまくった。
暎さんの言ってた野外イベントは、お盆の土曜日の夜に国立競技場で行われるらしい。

お盆、か。
私は、少しずつ決心をかためていた。

これから、暎さんに関わるならば、私はいくつもの取捨選択を迫られるような気がする。
いろんなものを切り捨てていかなければ、何も得られないだろう。

でも、暎さんに流されちゃいけない。
依存し過ぎてもいけない。

……鞄の中から、買ってもらったばかりのスマホを取りだした。
既に暎さんからの着信履歴と……これなんだろう?メール?ショートメール?ライン?……何かがメッセージを蓄えているようだ。

耳にあてて伝言メッセージを聞いた。
『一条です。新幹線、乗りました。今日は、ありがとう。これから、知織の曲、作ります。お楽しみに~。』

……私の曲?
アマチュアなら、ひ~っ!さぶっ!……って思うけど、暎さん、プロなんだよねえ。
何か、くすぐったいというか、面映ゆいというか。

ん?まだある?
『一条です。電話くれないの?知織の声、聞きたいです。』

……え?なに?

電話、かけ直さなきゃいけないの?

家では無理だってば。
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