おいてけぼりティーンネイジャー
メールをしようとして、まだ伝言ランプが光ってることに気づいた。

『一条です。おーい。もう東京だよ。まだ~?』

まだって、何が……って、電話待たれてるんだろうか。
うーん。

伝言ランプは消えたので、次はメッセージを読んでみる。
……荷物が大きいと母に見つけられてしまいそうなので、スマホ本体と充電コード以外全部捨て
てきちゃったので、完全に手探り状態。

<知織ちゃん 知織ちゃん 知織ちゃん>

……何だこれ?
あの人、偏執狂?……ぽいな。
苦笑しつつ、次のメッセージを見た。

<かまってよ。淋しいよ。冗談抜きで、さっきまで心が満たされてたのに、ぽっかり穴が空いてしまったよ。知織は?元気?>

……今まで元気だったのに、急に胸が締め付けられるように痛くなった。
涙がこみ上げてきた。

流されたくない、のに。
ちゃんと自分の足で立ってたいのに。
暎さんの言葉は、私の理性を簡単にぶっ飛ばすのだろうか。

<帰宅して、暎さんのことばっかり考えてます。勉強が手につかない。夏休みでよかった。>

そう送ったら、速攻で暎さんから着信!
……どうしよう……

とにかく、CDプレイヤーの音量を心持ち大きくしてスタートボタンを押した。
バロック楽器によるブランデンブルク協奏曲が流れる。
さらに、ベッドに入り、布団をかぶって電話に出た。

「もしもし。」
『わ!やらしい声!』
……やらしい?声をひそめてるから?

「ご自宅ですか?」
『いや、スタジオ。これから仕事。えらい?褒めて。』
え……えらい?

「あ~、免許証、返すの忘れてました。お車乗れはらへんのちゃいます?」
『ん?いいよ~。次逢った時に返してくれたら。』
気楽なヒトやなあ。

『……ねえ。やっぱり、自宅で電話は控えたほうがよさそう?俺、無理させてる?』
暎さんが心配そうにそう聞いた。

うん!そのほうがいい!てか、最初からそう言ってるやん!家で電話、無理!
……そう返事すべきなのに、私の口から出たのは全く別の言葉だった。

「うん……でも、がんばる。どうしても出られない時は、ごめんね。」

ああ、重症だ。
口までが私の理性を裏切った!



夕食の後、ピアノの練習をしていると、母が由未ちゃんからの電話を持ってきてくれた。
「今日はごめんね、由未ちゃん。ずっとほっといて。でも、ありがとうね。」
『ううん、お兄ちゃんと一緒やったし大丈夫。……で、どうやった?ちゃんと連絡先は交換できたんでしょ?』

母が部屋から出たのを確認してから、少し声をひそめて言った。
「由未ちゃん。私、高校は東京の姉妹校に行こうと思う。」
『はあっ!?』

由未ちゃんの反応で、自分がどれだけ唐突なことを言ったのかを推し量った。
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