おいてけぼりティーンネイジャー
結局、お盆の前から東京で過ごすことにした。
上手く父の気持ちを誘導し、父は2日で帰るけど、私はそのまま一週間ほど残れるようにしてもらった。

……IDEA(イデア)の夏のイベントのチケットも何とかゲットできた。
相変わらず暎さんは、たわいもない電話をかけてきては私に甘えてるかのようだった。

「イベントって、普通のコンサートとどう違うんですか?」
IDEAを勉強中の私は、その都度いろんな質問をした。

『どうだろ?チケットを工夫して、夏休みに野外で花火どっかんどっかん上げて……』
そこまで言って、暎さんは押し黙った。

「お祭り?」
『……そうだね。祭りだね。その感じ、忘れてたよ。ありがとう』
「?」

……なんて風に、私の初歩的な質問が暎さんに初心を思い出させるらしいことが多かった。
合わないはずの2人が、妙にうまく作用しているようだ……今は。
もちろんこんなのがずっと続くとは思わない。
この奇跡のような時間は愛しいけれど、暎さんのように浮かれることはできなかった。




東京の祖父母の家は等々力の古い小さな近代建築で、青や緑のタイルを効果的に使った当時としては洒落たものだった。

「まあまあ、嵩彬(たかあき)さん、ご無沙汰いたしております。知織ちゃん、綺麗になって。よく来てくださったわねえ。」
玄関先で祖母がそんな風に迎えてくれた。

「お久しぶりです、叔母さん、じゃなかったですねえ、お義母(かあ)さん。」
ニコニコと父が言った。
……父と母は従兄妹同士なので、父にとって祖母は、もともとは叔母だった。

「ほほ。どちらでもよろしいのですよ。裕子(ゆうこ)は、やっぱり来ないのねえ。」
「京都の水が合うてるんですわ。叔父さん!お元気でしたか。ご無沙汰いたしております。」

私達が応接室に向かう前に、しびれを切らしたらしい祖父が廊下に出てきた。
「嵩彬くん!元気そうだね。いつも本を送ってくれてありがとう。」
……父は祖父に著書や論文が発刊される度に送っているらしい。

「おじいちゃん、意味わかる?私、わからへんとこだらけやねん。」
祖父は茶目っ気たっぷりに言った。
「知織。本は読むためだけにあるんじゃないよ。こうして並べて飾っておくことも大事なんだよ。うちの婿殿はこんなに立派なんですよ、って、お客様にアピールできるだろ?」

それでいいのか!?

父はニコニコしてたけど、私は首をかしげずにはいられなかった。
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