おいてけぼりティーンネイジャー
その日は、夕方お墓参りに行き、夜は近くの中華料理屋さんでご馳走になった。
翌日は、4人で銀座に出て、天ぷらの昼食のあと、歌舞伎を見た。
三部構成で上演時間が短いけれど、豪華な舞台と役者さんの華で充分に満足感を覚えた。
その足で父は京都へ戻り、私は祖父母と等々力のお家に帰った。

次の日からは、私はほぼ独りで東京を回った。
まずは姉妹校へ赴き、見学させてもらい、募集要項をもらった。
それから、東大のキャンパスをいくつか見て回った。
国立国会図書館にも行ってみたが、18歳にならないと利用できない!知らなかった!

……まあ、閲覧だけなら祖父母の家の最寄り図書館から請求はできることがわかってホッとしたけど。

なにより、自宅にいるときより、ちゃんと暎さんの電話を取れることもうれしかった。



そして、土曜日の夕方。
祖父母には、バロックコンサートのチケットを友達にもらったと小さな嘘をついて、国立競技場へと向かった。

駅から、いや、電車の中から、IDEAのイベントに行く人の多さに圧倒された。
入場の列に並んでいるときに、当の暎さんから電話がかかってきた。

『なんか、賑やかなとこにいる?わーわー聞こえるよ。』
「うん。国立競技場。人が多すぎて、酔いそう。すごい熱気。愛されてますね、IDEA。」
『え!え?えーっ!!!』

電話の向こうで暎さんが叫んだ。
『来たの!?えー!言ってくれたら、チケットあげるのに。席どこ?』

「暎さんからすごく遠くの後ろのほう。モニターは見やすそうですよ。」
さすがに場所柄、暎さんの名前を出す時は声をひそめた。

『ずるいな、俺だって知織を見たいのに。席、換えなよ。』
拗ねた口調の暎さんが、すごくかわいかった。

「今日はいい。私が自発的に、来たかったの。」
対等でありたい、から。
「図書館で、暎さんが私を見つけてくれたでしょ?コンサートには、由未ちゃんって友達が連れてってくれたの。だから、今度は私が、来たかったの。」

なんだか、上手く言えなかった。
気持ちを伝えるのって、ほんと、難しい。
どう補足しようかと悩んでいると、暎さんは言った。

『ありがとう。知織の気持ち、うれしい。でもね、図書館で、話しかけてくれたのは、知織のほうだよ。俺は見とれてただけ。知織が声をかけてくれなかったら、俺、自分から話しかけられなかったかも。』

……そうだっけ?……そうかあ~?
やっぱり暎さん、調子いいな。
でも、私の言わんとしたことは理解してくれてるようだ。

『今夜は、知織のために歌うよ。知織と出逢う前の曲ばかりだけど想いを込めて。聞いててね。』
暎さんは、言うだけ言って電話を切った。

問答無用で、過去のラブアフェアを私で上書きするらしい。

複雑な気持ちになっちゃうなあ、それ。
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