おいてけぼりティーンネイジャー
チケット代わりのホイッスルを見せて入場し、スタンドの上のほうの席についた。
ステージ、遠~い。
暎さん、これじゃ、米粒大だわ。

持参したオペラグラスは、10倍。
それでも、ステージの様子が何とか見える程度。
モニターを見るほうがよさそう。

既に満員の会場は総立ち。
手拍子とホイッスルで耳がわんわんしてきた。

ステージにスモークがたかれ、レーザービームのようないくつものライトが会場中を駆けめぐる。
バーン!と爆発音が鳴り、花火と銀テープの紙吹雪が数ヶ所から上がった。
観客の歓声と悲鳴の中、ステージにメンバーが現れて、大音量の演奏が始まった。

モニターに映った暎さんの髪は金髪になっていた。
いや、戻っていた、というべきか。


賑やかな曲が続いたあとは、アコースティックギターでしっとりとした曲。
茂木さんが叫びまくる曲からの、3人の美しいハーモニー。
仮装コントや、芸能人ゲストも登場し、なるほど、コンサートより盛り沢山だ。
観客の盛り上がりも熱狂的で、バラードでは泣きじゃくるファンも多かった。

私は、暎さんの金髪に、ただポカーンとしていた。
なんなんだ、あれは。
めちゃくちゃ目立つじゃないか。
あれでは、一緒に歩く、とか、もう絶対無理やん。
聖地公園、独りで行こっかな。

アンコールでは、暎さんは、競技場をぐるりと一周走った!
スタンドのファンの大歓声も、暎さんと一緒にぐるっと移動するようで、おもしろかった。

暎さんの走ってる姿は、とてもすがすがしくて美しかった。
そういえば、中学時代は陸上部だったっけ。
覚えたてのデータを思い出し、納得した。

金の髪が、ライトを受けてキラキラと輝きを放ちながらたなびいていた。

2度めのアンコールで、聞き覚えのあるフレーズを聞いた。

♪君に伝えたい 僕の愛 僕の夢 僕の希望♪

あの曲だ!
私がいつの間にか覚えていた曲。

改めて、双眼鏡でステージとモニターを何度も見比べた。
間違いなく、暎さんが歌っている。
少し眉をひそめて、切なそうに、心を込めて歌っていた。

……そっかぁ。
これ、IDEAの曲だったんだ。
しかも、暎さんの声だったんだ。

出逢う前から、それもかなり前から、私の心は暎さんに共鳴していたんだ。
なんということだろう。

笑えるのに、涙がこぼれ落ちた。

好き。
やっぱり、暎さんが好き。

感情でうわずったり、かすれたりする暎さんの熱唱が私の心に染み入ってくる。

金髪でも、また髪を伸ばさはっても、もう、いいや。

白旗揚げて、降参する。

どんな暎さんでも、たぶん、いい。

犯罪者でも!
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