おいてけぼりティーンネイジャー
イベント終了後、ぎゅうぎゅう詰めの電車の中から素直な気持ちと感想をメールしておいた。
しばらくして、暎さんが電話をかけてきてくれたけど、まだ車内だったので出られなかった。

<もうすぐ電車降ります。ちょっと待っててくださいね。>
速攻で返信が来た。

<今どこ!?もう新幹線ないよね?夜行バス?俺に会わずに帰るんじゃないよ。>
……あ、京都にもう帰ると思ったのか。

<えーと、東京の祖父母の家に向かってます。京都には、明後日、帰るつもりです。>

そうこうしてるうちに、着いた。
電車を降りて、すぐに電話した。

『知織?どこ?』
ライブの後だからか、暎さんの声はいつもより低めで少しかすれていた。
それがなんとも、ドキドキするぐらい色っぽく聞こえる。

「等々力です。今日は、お疲れさまでした。」
『じゃ、明日迎えに行くから。さっきくれたメールの感想、知織の口で伝えて。ちゃんと聞きたい。』

え!?

「は、恥ずかしいんですけど、それ。」
電話のむこうで暎さんが満足そうに笑ってるのが聞こえた。
楽しんでる……。

と、誰かが、一条さ~ん、と呼びに来たのが聞こえた。
『これから打ち上げだから。明日ね。』

電話を切って、ふわふわした足取りでやっと祖父母の家に帰り着いたのは23時前。
シャワーを浴びてすぐにお部屋へ。

……昔、母が使っていた部屋を使わせてもらっているのだが、なんだかドキドキして寝付けなかった。

暎さんの打ち上げ、何時頃までなんだろう。
ちゃんと、お家に帰って眠る時間あらはるのかな。
……他の女の人と一緒だったりして。
あながち否定できない妄想に取り憑かれて、私は無理やり目を閉じた。



翌朝10時に、暎さんが連絡を寄越した。
『出られる?』
「はい。」

弾いていたピアノを片付けながら、出る準備を整えた。
『どこか近くにわかりやすいところある?』
「じゃ、区役所の玉川支所の駐車場で。」

祖父母の家を出て、庁舎に急ぐ。
日曜日でも駐車場に車が何台も駐まっているのが見えた。
どの車だろう……って!

ごっつくていかめしくていかにも!な白い車が1台!
運転席には、金の髪に黒いティアドロップのサングラス……これまた、いかにも!
私は苦笑するしかなかった。

「おはようございます。」
「おはよ。乗って。」
「……その前に!免許証不携帯ですよ!」
めっ!と、怒りながら、預かりっぱなしだった免許証を暎さんに返した。

「あ、そうだね。ありがと。」
全く動じてない暎さん首をかしげる。

もしかして、この免許証は偽物?
もしくは、ちゃんと再発行の手続きして、新しい免許証を持ってるのかな。
暎さんは、お財布にしまってから、つぶやいた。

「これで、捕まっても大丈夫!」
……いやいやいや!

かなり、間違ってるし!
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