おいてけぼりティーンネイジャー
「すごいですね。これ、地震のとき、落ちて来ませんか?」
「そりゃもう、大惨事になるよ。」

ぐるっと見渡して、ため息をつく。
「洋書も多いんですね。ジャンル、バラバラ。すごいなあ。本、お借りしてもイイですか?」

「もちろん!いつでも勝手に来て読んでいいよ。知織も面白い本あったら教えてよ。」
私が本に見とれてる間に、暎さんはティファールにお水を入れて沸かしてくれたらしい。

「何飲みたいの?」
「あ、お茶。冷凍庫に玉露があったから。暎さんも、飲みますか?」
「うん!」

私は、湧いたポットを持ってキッチンに舞い戻った。
蓋を開けて蒸気を逃がし、少しお湯の温度を下げる。
急須は……コーヒーサーバーで代用。

お湯のみは、マグカップかコーヒーカップか……あ、ぐいのみがある。
これで、いっか。

お湯の温度が下がるのを待って、パリパリとした針のような美しい玉露の茶葉をコーヒーサーバーに入れた。

ついでにパクッと一口……うん、おいしいお茶だ。

ゆっくりじっくりお茶を入れてベッドルームに戻る。
……暎さんは、開いた本を頬で押し開き、うつ伏せに眠っていた。
か、かわいい……
無防備な寝顔が愛しくて、私はいつまでも眺めていた。



結局その日は夕方まで、暎(はゆる)さんの蔵書を読んでた。
途中でお腹がすいてきたけれど、この部屋には食べ物がないらしい。
すぐそばに大きなデパートがあったのが見えてたので外に買いに出ることも考えたけど、エントランスの暗証番号も、コンシェルジュのお姉さんも、めんどくさそう。

ま、いっか。
せっかくの機会なので、今まで読んだことのなかったフランスの人の詩集を見せてもらっていた。
グールモン?
昔読んだ少女漫画にそんな伯爵がいたような……。

シモーヌ?女性?
……綺麗な詩。
ページがパラリと不自然に開いた。

折り畳んだ、雲母の和紙。
何気に開くと、四つ葉のクローバーの押し花が挟まっていた。
うーん……見るからに、女の子の手によるものだろうなあ。
暎さん、気づいてなさそうだなあ、と苦笑しつつ本を閉じた。

17時過ぎにようやく暎さんが目を醒ました。
「……何時?なんで俺、寝てんの?」
寝ぼけてるのか、こういう人なのか……返事しづらいな。

「17時過ぎですね。そろそろ帰りたいなーって思ってたので、起きてくれてよかった。何か飲みますか?」

「玉露!……て、帰るの?なんで?」
「祖父母と最後の晩餐です。湯冷まし常温玉露と氷出し玉露、どっちがいいですか?」

そう言いながら、どっちも出してみた。

暎さんは、思った通り、どちらも飲んで気に入ったらしく興奮していた。
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