おいてけぼりティーンネイジャー
「ごめん。いろいろ話したかったのに。」
ベントレーと言うらしい、いかめしい車で送ってくれながら、暎さんが不機嫌そうに言った。

「まあ、イベントでお疲れなのに、明らかに睡眠不足でいらしたから。でも、私は、過去の暎さんといっぱい話せましたよ。どんな本を読んできたかでその人がわかるって言うじゃないですか。」

足元のアクセサリーは、どうやらイヤリングだな~、いかにも趣味の悪いイミテーションの石の輝きはシャネルかな~。
気になりつつも、そこには触れず、強がった。

「俺が知織の話を聞きたかったの!あ、それにまだ、昨日の感想も聞いてない!」
くやしそうな暎さんは本当にかわいくて、私は笑いをかみ殺した。

「明日は?何時に帰るの?」
「決めてません。……よみうりランドの聖地公園に寄ってから帰るつもりです。」
「なんで?」
「……なんか、不思議やから。行ったこと、あらはりますか?」
「よみうりランドは昔行ったけど……。」
「じゃ、一緒に来ますか?暑いでしょうけど。」

思い切ってそう聞いてみた。



翌日、本当に暎さんは、聖地公園につき合ってくれた。
いかにも変なコンセプトの異様な場所に、これまた全くそぐわない派手な暎さんは、まるで異国の孔雀のようだった。
特にパゴタ(釈迦如来殿)は、笑えるぐらい似合っていた。
派手~な王様みたい。

てか!
「京都では普通のTシャツとGパンでしたよね?何でそんなにキラキラしてはるんですか?」
ついそう聞きたくなるぐらい、今回再会した暎さんは髪だけじゃなく、服装も派手だった。

「昨日、言ったよ。無理するのやめた、って。30歳になったから落ち着かなきゃ、とか、俺ってわからないように地味にしてなきゃ、とか、もう、俺、やんないの。」

何でそうなったのかはよくわからないんだけど、私はため息をついた。
「じゃ、一緒に外出とかできませんね。目立ち過ぎて。……私じゃ、釣り合わないだけじゃなくて、暎さん、ロリコンって思われはるわ。てか、淫行?」

別に卑屈にそう言ったわけではなかったけれど、暎さんは私の手を引いて、抱きしめた。
キャーッ!!!

「こんな、とこで、誰かに見られたら……」
涙がこみ上げてくる。
すごくドキドキしててうれしいのに、暎さんが自由過ぎて……心配で……

「誰もいないよ。さっきからずっと、誰にも会ってない。」

耳元で、優しいイイ声でそう言われると、全身の力がくたっと抜けた。
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