おいてけぼりティーンネイジャー
暎(はゆる)さんは東京駅まで送ってくれた。
車を降りる時、暎さんが鍵をくれた。
「あげる。いつでもおいで。俺が留守の時でも、本を読みに来るといいよ。」

マンションの鍵らしい。
……でも、何だか素直に喜べなかった。

何も言わないつもりだったのに、最後の最後に足元の派手なイヤリングを拾って、暎さんに渡した。
「あげる。誰かの忘れ物。……鉢合わせとか笑えないから、鍵は受け取りたくない。」

暎さんはイヤリングを見て、ハッとしたようだった。
その顔を見たら、もう、無理矢理笑顔を作ることもできなくなってしまった。
「帰ります。ありがとうございました。」
そう言い置いて車を降りようとした。

ら、鍵を閉められた。
「……降ります。」
暎さんを見ずにそう言ったけど、逆に車を発進、それも急発進されてしまった。

危なっ!
え!?
ドンッ!とすごい衝撃がして、車が金網に突っ込んだ。

何やってんの!?
てか、この車、見るからに高そうやのに!壊れてない?

「大丈夫?」
「バンパーがあるから、車体は大丈夫だろ。」

……そうか?

てか、暎さん……お怒りモード……逆切れかよっ!

「あの部屋には、掃除のヒトしか来ない。」
……他にも部屋がありそう……あくまで、あの部屋には、ね。

言葉にはしなかったけど、暎さんにはちゃんと伝わってたらしい。
「今は、服もギターも管理してもらってるから、部屋はあそこだけ!別荘もなし!スタジオはIDEA名義!車はコレ入れて5台!」
財産を暴露した後、さらに暎さんは続けた。

「女関係は、ちょっと前までは、自分でも嫌になるぐらい酷かった!でも、知織と出逢ってから、整理してるところ。たぶんソレも最後の嫌がらせだろ。頼むから、もうちょっと待ってて。いい加減なこと、もう、したくないから。」

……整理……。
私は首を横に振った。
「私には、そんなことをお願いする権利、ないから……」

暎さんは、悲しい顔になって唇を噛んだ。

「今は。……ごめんなさい、暎さんが手を出せない子供で。いつでも逢いに来れなくて。1年半、待って。高校はこっちに来れるように両親に頼むつもりでいるから。」

言った!
もう後戻りできない!

自分の膝をぎゅーっと掴んでうつむいた。


暎さんが、ふーっと息をついた。
「お互いに、近づこうとしてたんだ。なーんだ。いいよな、こういうのも。今は準備期間?……やばいな。マジで、うれしいわ。」

顔を上げると、優しい笑顔の暎さんと目が合った。
私の頬も自然と緩んだ。

本当だ。

今はお互い大変でも、目標が同じなら……一緒にがんばってるのと同じことかもしれない。
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