おいてけぼりティーンネイジャー
「暎さんと私、まだスタートラインにもついてないけれど、同じゴールに向かって走るんやね。」
そんな風に言うと、暎さんは自分のスマホを取り出して、何かを打ち込んだ。
「今の、来年の世界陸上のテーマソングに使わせて。イメージが目の前に広がった!」

わ!楽しみ!
「IDEAの曲、ほとんど暎さんなんやてね。歌詞もメロディーも、私、すごく沁みるねん。大好き。」

私の言葉に、暎さんは目を細めてうなずいた。
「俺も、知織が大好きだよ。」
……ちがーう!と、ツッコむこともできず、私達は照れながら微笑み合った。


2学期が始まってすぐ、私は担任の先生に進路の相談に行った。
高校は、祖父母の家から東京の姉妹校に通いたい、と。
やはり、相互の学校同士の推薦枠が存在するらしい。
入試から学年トップをキープしてるので、普通に受験しても問題なく受かるだろうけど、と、担任は残念そうだった。

その日帰宅すると、既に学校から連絡が来たらしく、両親が揃って待ち構えてた。
「どういうこと?」
「まあまあ、そう高圧的にならんと。おひいさん、萎縮してもうて話せんくなるわ。……おじいちゃんおばあちゃんと一緒に住みたいんか?」

私は、うんうんうん!と、何度もうなずいた。
「夏休みに、高校を見てきてんけど、等々力からなら通いやすいし、賑やかな街からは離れてるから勉強に集中できそうやし、それに、」

「建て前はいいから!どうして、行きたいの?ちゃんと納得いくように説明してちょうだい!」
母にそう言われて、私は息を飲んだ。

……言えるわけない……IDEA(イデア)と言うグループのリーダーの一条 暎(はゆる)さんとちゃんとお付き合いしたいから、なんて。

「東大も見てきたの。実際にキャンパスを歩いたらモチベーションが全然違って。私、どうしても、行きたいねん。」
ホロッと涙が落ちた。

父が慌てて私の背中をさすってなだめてくれた。
「そうか~。おひいさん、ほんまに東大行きたかってんなあ。等々力のおじいちゃん、喜ばはるわ。うちも、卒業生として、うれしいえ。」
父はそんな風に言ってくれたけど、母は納得してなかった。
……長期戦になりそうだ。



体育祭と文化祭が終わって、しばらくした頃。
高校の図書室で、久しぶりに由未ちゃんのお兄さんと会った。
「ようやくお役ご免ですか?」
……お兄さんは、今年、高校の生徒会の会長なので、文化祭の準備で学校に泊まることもあるほど忙しかったらしい。

「まあ、任期は来年までやけど、とりあえず山は越えたわ。」
そう言いながら、お兄さんは私のすぐ横に座ると、小声で聞いてきた。

「その後、どう?泣かされてへん?」
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