おいてけぼりティーンネイジャー
「暎さんとは準備段階ですかね。とりあえず今は、東京の高校に行くことを母に反対されてて、泣いてます。理由付けが弱いんですよね。」

お兄さんが首をひねった。
「意外やなあ。手ぇ早そうに見えるのに。知織ちゃんが美味(うま)そうに成長するの、待ってはるんかな?」

「……成長する前に、フェードアウトの可能性もありますけどね。」
苦笑する私に、お兄さんは眉をひそめた。
「そんな風には感じへんかったけどなあ。まあ、知織ちゃんらしいスタンスやけど。」

……私らしい、か。
「かわいくないですかねえ?」

思わずそう聞いてしまったけど、
「なんで?めちゃめちゃかわいいで。」
と微笑まれて、完全に聞く相手を間違えたことを悟った。

「……まあ同い年の男じゃ太刀打ちできんやろけど、相手、まがりなりにもオトナやし、問題ないやろ。かわいいかわいい。」
お兄さんのほうが、暎さんよりずっとオトナな気がするけど、と苦笑いが勝手に出た。

「それはそうと、親御さんに対する言い訳やけど……正論とか綺麗事は既に通用しいひんかったってこと?」
「はあ。父はともかく、母には建て前はいいから!って言われちゃいました。でも、本音を言って認めてもらえるとも思えないし。」
言ってて、ため息がこぼれた。

「母は、高校を中退して私を産んでるので、たぶん、色々苦労したんだと思います。世間体を気にして、未だに実家に帰りたくないようですし。それもあって、私は、母の実家から東大に通いたい、と思ってるんですけどね。」

そう言えば、由未ちゃんにも言ってないかもしれないようなことを、お兄さんには何の抵抗もなく言っていた。

「へえ~。知織ちゃんらしいねえ。でも、そういうことなら、お母さん、心配で知織ちゃんを手放せんわなあ。なるほどねえ。」

お兄さんの言葉にうなずいた。
母の気持ちもわかるから、ほんとのことは余計言えない。
「お兄さんだったら、どう言いますか?」

私の質問に、お兄さんは探るような目で私を見た。
「嘘も方便?ただ、知織ちゃん、いい子やから、親御さんに罪悪感を抱いてしんどくなるかもしれんしなあ。」

私は、生唾を飲み込んだ。
今、暎さんと親との選択を迫られている、とは思わない。
たかだか高校3年間、親元を離れたからって、私が両親の娘であることに変わりはない。

でも……嘘をついてしまったら、それは一生抱えなければいけないかもしれない。
親は一生、いや、死んでも親だけど、暎さんとはいつまで続くのか皆目見当がつかない。

一瞬の暎さんとの時間のために、永遠に親を騙す?

それでも、いい?
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