おいてけぼりティーンネイジャー
ぐっと、両手の拳をかためて、顔を上げた。
「……いいです。どんなにつらくても、選択を後悔しません。どんな風に嘘つけば効果的でしょう?」

お兄さんは、片方だけ眉毛を上げてから、笑いかけてくれた。
「いいね。羨ましいわ、潔くて。そうやなあ、コペルニクス的展開?発想を逆にしてみようか~?」

逆?

「つまり、知織ちゃんは、男を追い掛ける為に東京に行くんじゃなくて、悪い男から逃げるために京都を離れる、とか、どう?」

……そんな……中学生が?そんな状況に陥ることある?

戸惑ってると、お兄さんはウインクを寄越した。
「適任者がいるよ。俺、どう?」

「!?」
さすがに、言葉が出なかった。
何言ってるんだ、このヒト。
わ、笑えない……。

「じゃ、具体的な作戦会議しよっか。」
お兄さんは、ずいっと私に近づくと、自分の携帯電話でツーショット写真を撮った。
楽しそうな笑顔のお兄さんと、めっちゃ顔がこわばって赤くなってる私。

「うん、いいね。とりあえず~、知織ちゃんのお家のパソコンのメアド教えて。送るから。知織ちゃんは、デスクトップにフォルダを作って画像を保存してね。……由未も一緒に撮った写真のデータも送ろうかな♪」

「なるほど。じゃ、プリントアウトして持ち歩きましょうか。」
2人で顔を見合わせて、にやりと笑った。
とりあえず、しばらくは私がお兄さんのことが好きって思わせるのね。
やってみましょう!

「……ほんと、知織ちゃんとはイイ関係築けるだろうに。残念だな~。」
「じゃ、暎さんに捨てられたら、本気で慰めてくださいね。それまでは、アンダーテーブルってことで。」

お兄さんとの、どこまで本気かわからない会話は、心から楽しかった。
これをきっかけに、お兄さんとはメル友にもなった……末永く。
でも、何となく、お兄さんも私も、由未ちゃんには言わなかった。

その日から、私は早速、細かい根回しを始めた。
……一応、親にチェックされないとも限らないので、今までも家のPCでは「IDEA」や「一条暎」を検索した後は念入りに履歴を削除したし、もちろん画像なんかも残していない。
だから、こんなふうにお兄さんの写真や画像を置いておくのは楽しくすらあった。

中間テストが終わった週末、いつものように由未ちゃんのお家に泊まりに行くと両親に告げた。

明らかに動揺してる母の様子に、私は心の中でガッツポーズをした。

……私が由未ちゃんのお兄さんに惚れてる、って思い込んでくれてる!よしっ!
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