おいてけぼりティーンネイジャー
私は、いつも以上にかわいい格好をするよう心掛けて、いそいそと出かけるふりをした。

バスで移動しながら、お兄さんにメールで伝えた。

<母が布石に気づいてるようです!>

<了解!じゃ、明日は俺が送ってくわ。>

え!?
マジで?
お兄さん……徹底的にやる気だな……

由未ちゃん家では、お兄さんとは挨拶しかしなかった。

むしろ暎さんが今日は暇だったらしく、由未ちゃんも一緒にスカイプでおしゃべりをした。
「知織ちゃん、こないだコクられはったんですよ~。あんまり放っとくと、浮気されますよ。」
「ちょっ!由未ちゃん!それはっ!」
『へええええ。それ、いつの話?俺、ほぼ毎日、電話してるよね?ねえ?知織?……聞いてないよ~!?』

……由未ちゃんの前でも子供みたいな暎さんが、愛しくもあり、恥ずかしくもあり……あああああ。

「その場で速攻お断りしました。」
きっぱりそう言ったけれど、ちょっと胸が痛んだ。
私がお兄さんと画策してることは、由未ちゃんにも、暎さんにも内緒……なんだよね……。

『秋は、京都はないけど、ツアーファイナルが大阪だから、2人でおいでよ。』
「わ!うれしい!前のほうの席、くださいね!」
はしゃぐ由未ちゃんに、暎さんが胸を張った。

『もちろん!その代わり!由未ちゃん、知織のこと、ちゃんと見張っててね。』
「はーい!一番危ないのは私の兄なんですけどね、全力で阻止しまーす!」

……無邪気な2人の会話が、さらに胸に鋭く突き刺さった。


翌日、本当に由未ちゃんのお兄さんは、駅で待っててくれて、私を家まで送ってくれた。
「お手数おかけして、すみません。」
「いや。俺が言い出したことやから。それより、うまくいくといいなあ。今日はまあ、お母さんが気づかはるまで玄関先でしゃべってるだけにするけど。……知織ちゃん、泣き真似は、得意?」

へ?

「得意ってほどじゃないけど、まあ、ほどほどに?」
「最終的には泣きながら帰宅して、涙ながらに訴えるのが有効やと思うけど。」

……そうね。

「泣く練習しとくわ。」
「泣き落としは、一条氏にも使えるしな。女の子は上手に泣くことも大事やろ。」
暎(はゆる)さんの名前を急に出されて、私は照れた。
「いいね、その顔キープできるか?それっぽいで。」

「え~~~、は、恥ずかしい……」

ちょっと声が大きくなったせいか、家の中から母が出てきた。

「知織?どなたとお話してるの?……あ……」

ズイッとお兄さんが前に出て、満面の笑顔で母に挨拶した。
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