おいてけぼりティーンネイジャー
「こんにちは。いつも妹がお世話になっています。竹原由未の兄です。」
外面(そとづら)のいい好青年モードに少しチャラ男をプラスしたお兄さんは、問答無用で「好(す)いたらしい」京都のぼんぼんだった。

母は少し見とれて、はっとしたように取り繕った。
「まあまあ。こちらこそ、いつもいつもご迷惑をおかけして、すみません。あの、今日は……由未ちゃんは?」

お兄さんは、母のさまよう視線を笑顔で捉えた。
「家で寝てます。夕べずいぶんと2人ではしゃいで夜更かししたようで。ね?知織ちゃんも、今夜は早めにおやすみ。」

最後は、甘ったるいぐらいの優しい声色で私の髪を撫でた!
ひいいいいっ!
は、恥ずかしいっ!
いつもお兄さんが由未ちゃんの髪を撫でるのをちょっとうらやましい気持ちで見てたけど、実際にやられると、近過ぎて目線に困る!

硬直する母と、たぶん火を噴きそうなぐらい真っ赤になったであろう私に、これまた極上の微笑みで会釈して、お兄さんは去っていった。

家に入ってから、母は何か言いたそうだったけど、私はすぐに自室に逃げ込んだ。
あー、まだドキドキしてる。

鞄の中からスマホを取り出すと、暎さんからの着信があったようだ。
私は、慌ててイヤホンマイクをさして、電話をかけ直した。

『知織?帰宅したの?』
「はい。なので小声ですけど。……暎さんに、会いたいです……すごく、今。」

自分がこんな風なワガママを言うようになるとは、思わなかった。
なんか、お兄さんの色香にあてられた気がする。

何も知らない暎さんは、一瞬の間のあとで言った。
『わかった。行く。』

は!?

「今、鳥取ですよね?あと……一時間足らずで、コンサート始まりますよね?」
頭に入ってるIDEA(イデア)のスケジュールを思い出して、続けた。

「明日は、松江でコンサートですよね?」
『うん。』
「……無理ですよ。」
『そう?飛行機で往復すりゃ、何とかなるんじゃない?』

私は、小さくため息をついた。
暎さん、こういうヒトなんだから、私がしっかりしなきゃ。

「明後日、東京に帰られるんですよね?その翌朝が、番組収録。」
『そうだっけ?』

そうなんですよ!

「じゃあ、明後日、京都に寄ってください。いいですか?」

松江からなら、ちょうど放課後ぐらいにならはるんじゃないかな?
あんまり遅くまでは無理やけど、数時間なら一緒に過ごせそうだ。

『わかった~。知織、明後日までイイ子で我慢してるんだよ。じゃ、またね。』

……イイ子……何だかくすぐったいな。
暎さん……。

本気で、今、暎さんに逢いたい……。

涙が勝手にこぼれ落ちた。
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