おいてけぼりティーンネイジャー
その夜、夕食のあとで母が真面目に聞いてきた。
「知織?……お母さんの勘違いなら、ごめんなさいね。あの人……由未ちゃんのお兄さんって……あなた、あの人のことを?好きなの?」

もう、きちゃったよ、この質問。
まだまだイロイロ仕込んで確実なものにしたかったのにな~。

私はちょっと表情を歪めて悲しい顔をして見せた。

「……あんた、そんな、デリケートな問題を。おひいさん、泣きそうな顔してはるやんか。」
お父さんがオロオロかばってくれる。

「でも、あなた。……あの人はちょっと知織の手に負えないというか……」
……うん、そう思う。

私は、さっき暎さんを思って泣いた気持ちを一生懸命思い出して、涙を目に溜めた。
「わかってる……だから、つらいねん……」
そう言って、ようやく溜まった涙を盛大に溢れさせて、出てもない鼻水をすするふりをした。

「お兄さんはあんなヒトやから、誰に対しても優しいねん。せやし、期待したらあかんのに……由未ちゃんの友達ってことで、私にも親切にしてくれはるだけやのに……どうしても、期待してしまって……苦しくて……」

ここでさらに涙を流したかったけど、もう出なかった。
……女優にはなれないな、私。
仕方なく、席を立って、パタパタと自分の部屋に逃げ込んだ。


翌朝、お弁当を手渡しながら母が言った。
「……高校、東京に行きたいって……もしかして……」

おお!
布石が全く足りてないのに、母はちゃんと、お兄さんと私が準備している答えに行き着いてくれたようだ。

私は、どきどきわくわくする心を無理矢理押さえ込み、泣きそうな顔をして見せた。
「……由未ちゃんとはずっと友達でいたいけど……距離をおいたほうがいいと思って。このままじゃ、想いを断ち切るどころか、逢う度にもっともっと好きになってしまって……勉強も手につかなくて……」
それだけ言って、私は逃げるように家を出た。

帰宅後、母に座敷に呼ばれた。
「あれ?お父さんは?」
「……今日は女同士の話やて。いってらっしゃい。」

私に甘い父が同席しないのは、かなり心細かった。
母は、沈鬱な顔をしていた。

「お母さん?」
「知織。今日、東京のおじいちゃんに、知織のことをお願いしたから。高校から東京に行きたいのなら、そうなさい。ちょうど、私の母方のいとこが教師をしてるから。成績が下がったり、素行が悪くなったらすぐこっちに連絡来るからね!しっかりやりなさい。」

……いいの?

何かもう、あっさりうまくいきすぎちゃって拍子抜けしてしまう。
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