おいてけぼりティーンネイジャー
「暎さんも。身辺整理終わったんでしょ?新曲、そう受け止めました。」
『うん。もう、知織を悲しませるようなこと、ない。と思う。たぶん。……うん。』

つい、クスッと笑ってしまった。

『笑うなよぉ!けっこう大変だったんだぜ。……自業自得だけどさ。手切れ金とか、信じらんないよね。』

手切れ金?
いったいどんな女と付き合えばそんなもんを請求されるんだ?

『ま、これで、俺、綺麗な身になったから、今度は受け取ってね、部屋の鍵。』
「はい。私も……受け取ってくださいね。」

……私自身を。



中学三年生は、あっという間に過ぎた。
勉強と読書、イレギュラーに、暎さん。
毎日が充実していた。

あ。
夏休みに、由未ちゃんが恋をした。
しかも由未ちゃんは、その人の通う神戸の公立高校を受験することにしたらしい。

突然の路線変更に驚いたけれど、由未ちゃんの初恋を機に、お兄さんが妹離れしようとしてることに気づいた。
「淋しいですか?」
言わずもがなな質問だけど、お兄さんは何の衒(てら)いもなく言った。
「淋しいで。でも俺以外の男に惚れてくれて安心したのも本音。あとは、もっといい男にうまく誘導せんとな。」

「過保護~。」
思わずそう揶揄したら、お兄さんは私の鼻をちょんとつついた。

何っ!?

慌てる私をからかうように、お兄さんは言った。
「ほら、この程度のことで恥ずかしがってたら、30過ぎた芸能人となんか付き合えんで。俺、本気で知織ちゃんのことも心配してるしな。」
……うん。
泣きそうになった。

母や血のつながってなかった父だけじゃない、お兄さんや、由未ちゃん……大事な人達を捨てて暎さんのもとに行くなんて……本当にそれでいいんだろうか。

私は、改めて自分の足元と、これから行く道を考え直していた。
もちろん、今更、京都に残るつもりはない。

暎さんをこれ以上放置することはできない。
でもだからと言って、結婚とか同棲とか、そんな具体的な計画も立ててはいない。

ただ、少しでも近くにいたい。
それだけ。
そこには、何一つ義務も契約もないけれど、それでも私にとっては大事な大事な目標だ。

ちゃんと、自分の足で立って生きてくための手段も考えなきゃなあ。




大村知織、15歳。

一足飛びに少女から恋する乙女への脱皮の時が来ていた。
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